112. 薫の傷と春風の夢
嫌ったりしない。
大丈夫、これからも、何があっても助けるから。
玲の言葉で私は驚くほどほっとして、眠りの中にいた。
夢の中で、私は中学の頃の制服を着ていた。
◇
中一の頃、学級委員をすることになった。
私はがんばらなきゃと思って一生懸命やっていたつもりだった。
ところが、何だか色々と先に立ってやり過ぎてしまったみたいで、気付いた時にはクラスでちょっと孤立していた。
それは中一の三学期のこと。
学級委員だった当時の出来事は、私は心配するかなと親に相談できなくて、兄の郁だけが少し知っていた。中二に上がる直前の春休み。気になっていて相談した時、少し考えるみたいにして、郁は言った。
「たぶん、一回失敗したら、それは僕が舞の発表のときに間違えたりするのと似てて、次が怖いと思うんだ」
私は頷いた。孤立するということは、当時の私にとって真の恐怖となっていた。
「だから、薫が空回りしたって気付いてるんだったら、今度は周りの子の気持ちとか、それって僕もむずかしいけど、一個考えてから言うとか、してみたらどうかなって思う」
「でも、薫ばっかり考えて、友達は薫のこと、考えてくれてないかもしれないのに?」
私は今以上に子どもだったし我が儘だった。私がそんな風に言うと、郁は少し考えて、もうひとつ付け足したことがあった。
「うん、でも、なんかそれって循環すると思ってるから」
「じゅんかん?」
「僕が薫を好きだって思って、それをぐいぐい押しつけたら薫も嫌かもしれないけど、そっとして、なんか薫が先に話してて、僕が待って、その後で僕が話すのは、薫は嫌じゃないだろ? そういう感じかな」
ちょっとだけわかった。なんだかんだと甘やかされて育った私は、いつも、私は私はってなっちゃってた。そして郁は待ってくれるんだ。私のことを。
「わかった。私! って言いそうになったとき、ちょっと待ってみる」
なるほどと思ってそうしていたら、二年のクラスで友達ができて、三年でもそれは続いて、高校で会った毬花と玲は、私にとって、とても大事な親友と彼氏になった。
そしてお兄ちゃんの郁はいつも、私を見守ってくれていた。
なんでこんなこと思い出したんだろう……。
ぼんやり考えて掌を見たら、やっぱり青い炎が浮かび上がった。勿忘草みたいな薄紫色はうすれて、水色っぽく色が変わっていたけれど、私は怖くてひゅっと変な声が出た。
そのとき、ふわりと風が吹いた感じがした。
私は驚いて、周りを見回す。風狼の気配はないみたい。
その代わりに、ひらひらと幻みたいに、きれいな何枚もの花びらが落ちてきた。
いつのまにか私の周りに、すぐ消えちゃう雪みたいに、でも暖かな風と一緒に、ピンクや白の花びらがくるくると舞ってた。
花びらに魅入られて、その後もう一度掌を見たら、水色の炎は小さくなって消えた――。
目を開けたら、部屋には誰もいなくて、窓の外は暗く、夜のとばりが降りていた。
都合がいい夢みちゃった……郁の舞みたいな春風が、青い炎を消してくれるなんて。
でも起きたとき、なぜだか心がふわりと、まるで郁と話した後のように安らいでいた。
(がんばれ薫。)
気のせいだったかもしれない。でも、その時、郁の声が聞こえた感じがした。
私は思い出す。何か耐えられないように辛いことがあったときは、僕のこと思い出してと言っていた兄のことを。 そしてさっき、目が覚めてすぐ、がんばれ薫、と聞こえた。
都合が良いかもしれない。でも。
信じる者は救われるとも言うよね。
「がんばれ薫」
私は自分でも呟いてみる。
それは驚くほど、私の力になったのだ。




