第20話:旧知の仲と宴会の罠
ラゴウは目を見開き、驚愕と懐かしさの混じった声を漏らした。
「……久しぶりじゃねえか。ヴァルターにエリン」
「随分と久しいな、ラゴウ殿。……もう十年は経つか」
「ふふっ、やっぱりギルド長になってたのね。静流との会話でそうだと思ったのよ」
ラゴウは顔をほころばせ腕を組み直す。
「ああ……忘れねえよ。あの時、南の森から押し寄せてきたオークども……村が持ちこたえられたのはお前たちのおかげだった」
「……あの戦いはきつかったな。オークジェネラルに率いられた群れの勢いは異常だった」
「だが、お前とオレで前衛を張って、後方からエリンの魔法スキルで叩き潰した。今でもよく覚えているぞ」
ヴァルターが口元に薄い笑みを浮かべ、エリンも懐かしむように目を細める。
「ふふ……。ラゴウさんが敵の群れを一歩も退かず受け止めてくれたから、私の魔法も生きたのよ」
「お前たちに背を預けられたからこそ、俺も踏ん張れたんだ」
戦場を共にした者たちにしか分からない懐かしさが流れる。
そして、ラゴウは歓びに表情を緩ませた。
「……またいいタイミングで来てくれんじゃねえか!」
十年前は前ギルド長が依頼を出した結果この二人がやってきた。
かなり若い二人の姿に、当初は不安を感じていたことを思い出す。しかし、彼らは強く、自身と肩を並べられる者たちだった。
それから数年後のギルド長になって実力が停滞したラゴウとは違い、更に強くなっていると気配で察せられる。
「明日の討伐に参加してもらえんだよな?」
「報酬は貰うが、その分働きには期待してくれ」
「私も前より広範囲の魔法が使えるから、最初に一発決めてあげるわ!」
ラゴウがヴァルターとエリンの登場でテンションを上げているが、先程のトラブルを一応伝えておかなければとアリシアはラゴウに話しかけた
「あの……ギルド長、一つ報告しておきたいことがあります。……少し言いにくいのですが実は先程オンジさんが静流さんに絡んでしまい、両腕を失いました」
「あん?オンジの奴はどうしようもねえな……。街を守る戦力として当てにしてたが、もう戦力は十分だ。オレが村に残り防衛を担う。……お前たちに任せていいな?他の冒険者はゴブリンを逃さねえよう包囲させることにする」
オンジの事はあっさり済んでしまった。静流が被害に遭った時と同じで、冒険者同士で起きた出来事にギルドは介入しない。ゴブリンの問題が解決できそうな今となっては、オンジの必要性も薄かった。
「ああ、任せてくれ」
「ゴブリンくらい私たちだけで対処できるわ」
「私も微力を尽くします」
三人の冒険者の心強い返事で、ラゴウとアリシアの心の内で安心感が広がる。
これで村の安全はきっと守られるだろう、と。
明日の討伐戦の話し合いが終わった後、ラゴウは「宴会を楽しんでこい!そろそろ準備が終わる頃だぜ」と静流たちに言った。
宴会は村中で行うらしく、ギルドの中から村のあちこちで準備が終わり、もう食べ始めている人もいる。
食欲を誘う香りが漂っていて、余計にお腹が空いてしかたない。皆のお腹も食事を求めており、音を鳴らし始めていた。
「お腹が空きましたね。何から頂きましょうか」
「前は村の名物として大きなソーセージがあったな。パブリックソーセージというもので、切り分けて食べたんだが、香辛料がよく効いてて美味かった」
「美味しかったけど、口周りがテカテカになって恥ずかしいわよ」
村を三人で歩き回り、分けながら食べると色々と摘めて満喫できている。他の人の視線は浮ついた気持ちになっているからかあまり気にならない。
「そういえばこの村特有の料理をまだ食べてないですよね?」
「……確かキノコ料理が多かった印象があるな」
「私はキノコは嫌いだから断ったのよね」
「結構美味かったぞ。薬効があるとかで体にもいいらしい」
「ちょっと食べてみたいですね」
会話が聞こえたのか、近くにいた村人が笑顔で近寄ってきた。
「コルン特有のキノコ料理は広場の中央で配ってますよ。丸太を積んだ大鍋の近くだ。女衆がせっせと煮込んでるから、行ってみなされ」
「ありがとうございます。……それじゃあそこに行ってみましょうか」
私たちは村人に頭を下げて、案内された方向へ向かった。広場の中央には香ばしい匂いが漂い、鉄鍋の中で煮込まれたキノコ料理が湯気を立てている。
「どうぞどうぞ、熱いうちに食べてってくださいな!」
差し出された椀を、ヴァルターと一緒に受け取る。
エリンは苦笑しながら手を振った。
「私は遠慮するわ。キノコはどうも匂いがね……」
「美味しそうですけどね」
「うむ。記憶そのままだな」
私とヴァルターは木の椀を手に、キノコがふんだんに入った汁を口に運んだ。出汁の効いた深い味わいに、ほんのりとした苦みと土の香り。舌に残る独特の風味が、意外にも後を引く。
「……美味しいですね」
「悪くない。滋養強壮とやらも期待できるな」
少しずつ食べ進めるうちに、体が妙に熱を帯びていくのを感じた。頬が赤くなり、胸の奥がざわついて落ち着かない。
「……あれ、なんだか……体が……熱い……」
手を止めた私の様子に、ヴァルターとエリンがすぐ反応する。
「静流、大丈夫か?」
「顔が赤いわよ……!」
支えられながらも、どうにも火照りが収まらず、喉が渇いて仕方がない。
「……なにか、飲み物を……」
そのとき、こちらの様子を見ていたのか逞しい腕の木樵が現れた。大きな桶を抱えていて、気さくな笑みを浮かべている。
「おう嬢ちゃん、大丈夫か? これでも飲んでみな。村の名物ジュースだ」
差し出された木のカップを受け取り、一口飲むと、甘酸っぱさと涼やかな清涼感が喉を潤した。火照った身体に冷たさが心地よく広がり、ふっと息が漏れる。
「……ありがとう、ございます……」
だが、冷えたはずなのに、身体はまだ熱く、今度は瞼が重くなっていく。
「静流、座れ。無理をするな」
「ええ、そこに椅子があるわ。座りましょ」
促されるままに木の椅子へ腰を下ろすと、宴会の喧噪が遠くに霞んでいくように感じた。視界が揺らぎ、眠気が波のように押し寄せる。
「……なんだか……すごく……眠い……」
ゆっくりと目を閉じる。
ヴァルターとエリンの声が遠くに聞こえながら、その意識は静かに沈んでいった。




