第14話:一目惚れと旅の同行者
自分から何も行動できないでいると、一人の金髪の女性が浅瀬の木立の間から現れた
「ちょっと!何してるのよヴァルっ!」
甲高い声で割って入ってくれた女性に、ヴァルターと呼ばれた青年は狼狽えた。
彼女も同じく水浴びを終えたばかりなのか、濡れた髪を揺らしながら、そのわがままな身体を一切隠さずに、瀬を踏みしめて近づいてきた。
「あなた!裸の少女に迫るなんて、正気なの!?」
彼女は私の肩を抱き、胸元に引き寄せる。
濡れた身体同士が触れ合い、熱に拍車がかかる。
「ほら!あっち行きなさい!女性二人が裸でいる所に、いつまでも突っ立ってるんじゃないわよ!」
彼女の蒼碧の瞳が怒りに燃え、ヴァルターを睨みつける。
一方で、彼女の腕に抱かれた私は、どうすればいいのか分からず固まってしまう。
ヴァルターは動揺しながらも必死に言葉を返す。
「誤解するなエリン!俺は本気だ!責任を取って彼女を幸せに――」
「責任とか言って誤魔化すんじゃないの!」
彼女は声を被せ、私をさらに抱き寄せる。
「可愛い子を見たら好きになった、それでいいでしょ?少なくとも私はそう。……貴女に一目惚れしたの」
至近距離で女性のエリンにまで一目惚れだと告げられ、耳まで熱が広がる。
二人の視線に挟まれ、混乱していた頭だが、不意に思考がはっきりした。
ここまで強制イベントであったかのように全く抵抗できなかったが、やっと動けると感じた私は二人に告げる。
「その……先に服を着ませんか?裸でするような話ではないかと……」
私のその言葉に、二人は謝罪した。
「すまない」「ごめんなさい」
二人は顔を見合わせ、わずかに気まずそうに目を逸らした。
ヴァルターは背を向け、湖畔へと歩き出す。
エリンも小さく咳払いをして、腕をほどいた。
「……じゃあ、服を着てからまた話しましょう」
私の言葉に従い、それぞれ湖を後にする。
冷えた風が肌を撫で、緊張の余韻だけが残った。
着替えを終えたとき、三人の間には先ほどとは違う空気が流れていて、それぞれが真剣な雰囲気を醸し出している。
エリンは、軽装化された聖職者のような衣装で、所々肌が露出している衣服を着ていた。
「最初に自己紹介をいいですか?私は静流という者で、今は近くの村、コルンに滞在しています」
「……静流、か。良い名前だ」
ヴァルターは短く名を繰り返し、真剣な眼差しを向けた。
「俺はヴァルター・エルンスト。アルシア帝国冒険者ギルド所属のミスリルランク冒険者だ」
隣でエリンも一歩前に出る。
「私はエリン・ロンドニア。同じくミスリルランク冒険者で、ヴァルとは幼馴染。今は冒険者ギルド本部の任務で動いてるわ」
二人とのミスリルランク冒険者なのか……。
敵対はできないな。好意的な相手なのが幸いだ。
自己紹介が終わり短い沈黙が落ちた。
「……それで、何故二人はこんな所に?私は数日お風呂に入れなくて、気分転換を兼ねてきたのですが」
二人の事情を尋ね、私の理由を先に説明する。
ここにいた理由は私と似たりよったりだとは思う、けど、何故二人から告白される羽目になったのか分からない。
「俺たちはメシュブランカへ向かっている途中だった」
ヴァルターが答える。
「道中にエリンが水浴びを望んでここへ立ち寄った。……俺は周囲を警戒していて異変を感じたので探れば君がいて……。我に返れば覗きに夢中で……全てを見てしまった後だった」
……また男に全裸を見られたのか。見られることに羞恥心は感じないけど、危機感はある。男から向けられる欲望に対して無防備過ぎるかもと……。
でも全く裸にならず過ごすのは無理があるので、諦めるしかないかな……。襲われさえしなければ許容範囲だから、別にいいかとも思う。
ヴァルターは覗きを堂々と宣言するあたり、ある意味男らしい。これでは敵意を抱きようもなく、仕方なかったのだと感じてしまう。甘い考えかもしれないけど……。
それで、何でプロポーズになるのかはさっぱり分からない。
それはまた話が別で、普通は謝罪と相手から許しを得ることから始まるのでは?段階が幾つか飛んでると私はつっこみたい気持ちだった……。
言葉を区切り、彼は真剣に続けた。
「その瞬間、覗いてしまった罪悪感に苦しんだ。だが同時に天啓が降りたんだ。責任を取って結婚すれば全て問題ないと。俺は君を必ず幸せにすると己に誓った」
隣のエリンが肩をすくめる。
「ヴァルと大体同じなんだけど……。私も貴女をみた瞬間、脳内に雷が走ったようだったわ。運命だって思った。それなのにヴァルが責任取るとか言って掻っ攫おうとするなんて……許せないわ!だから、貴女に一目惚れを告白したの……。――引かないでね?本気なのよ?」
話が終わった二人は、私をじっと見つめている。
やはり冗談でも気まぐれでもなかった。
こ、これはまさか、告白の返事……待ち?
な、何でこんな事に?
何故か胸がどきどきとして嬉しい気持ちが溢れ出ているが流されるわけにはいかない!
この感情のままに振る舞えば何かおかしな事になる気がする……。
「そ、その、あなた達はメシュブランカに任務で行くんですよね?私は事情があって今はコルンを離れるわけにはいかないんです。だから一緒に行くわけには……」
これで大丈夫なはず……。
……何か悪いことをしているような気がしてしまうけど、二人が真剣だからかな?
「任務と言ってもメシュブランカ周辺で手助けをするといった緩い任務だ。暫くコルンにいても問題ない」
「何か最近おかしな行動をしてる奴らが多いとかアインス連合国内の情報を集めてくるように言われてもいたけどね。でも時間制限とかもないから心配いらないわ」
「……まあそんなわけで、俺達を君に同行させてくれないか」
「そう深く考えなくても大丈夫よ?私たち気が長いから全然待てるし?」
「…………ああ、待てるから。俺に君を守らせてほしい」
――二人の言葉に胸の奥が辛くなった。このまま誤魔化しては良心の呵責に苛まれる。
それにミスリル級の冒険者が自分に対して頭を下げ真剣に提案しているのだ。
力ある者が強制せず、ただ願いを口にしているという事に、人としての誠意を感じた。
少なくとも嫌悪はなかった。むしろ、正直に言えば好感を覚え始めていた。
「……返事はすぐには出来ません。ですが、私もコルンの次はメシュブランカに向かうつもりです。そのときなら、一緒に行っても構いません」
言葉を終えると、二人の表情が一気に明るくなった。
「感謝する」
「ふふ、決まりね!」
ヴァルターは短く、だが力強く頷き、エリンは小さく笑みを浮かべ、私に抱きついた。
少し驚いたが、好意的なエリンの行動は素直に嬉く思う。
最近は気の休まることが少なかったので、人肌の温もりを感じると、心が穏やかになるようだ。
驚きの出会いではあったが、ようやく落ち着いた空気が流れて、これから二人と上手くやって行けそうな気がしたのだった。




