13話:水浴びと覗きと求婚
道具屋を後にした後、村を出て東の森の小道を北へ進んでいく。
三十分ほど歩いた先、木々の隙間から光を映す湖面が現れた。
木々を抜け、湖畔の浅瀬にある岩の近くで、衣類などを万物保管庫へしまい込み、湖に吹く風に美しい裸身をさらした。
腰まで届く銀髪を解きながら、湖水の浅瀬へと身を沈める。
ひやりとした水の感触が全身を包み込み、思わず吐息が漏れる。
「――ん、ふぅ……」
数日ぶりに肌を濡らす感覚は、錬成で清潔を保っていた日々では得られない心地よさだった。
妙な焦燥感からは完璧に解放され、気分が非常にいい。嫌な出来事があった村から一時的とはいえ脱出したことも大きいかもしれない。
万物保管庫から布タオルと石鹸草を取り出し、錬成する。
白い泡がふわりと膨らみ、布を柔らかく変えていく。
「……よし」
満足のいく結果に頷いた。
自然と微笑みながら、身体を洗い始める。
首筋から肩へ、そして胸元から腰へと、布をすべらせるように洗っていく。
肌は驚くほど滑らかで、触れるたびに吸い付くような感触があり、心地よさを覚えるほどだった。
そしてふと思う。
――あの酔っ払いは、この身体を好き放題してくれたのか。
男だった頃の感情がふとよみがえり、怒りが再燃した。
――今度見かけたら、絶対に殴る。
もやもやを振り払うように、今度は髪を洗う。こういう場所では怒りは長引かない。夕方まではまだ時間がある。念入りに洗って、気持ちを整えておこう。
その内心の考えとは違い、その仕草は無防備で、しかし粗野さを感じさせない。女性的な魅力的で溢れていた。
――時は少し戻る
湖畔で微かな異変を察知した。
気づいたのはミスリルランク冒険者、ヴァルター・エルンスト。
彼は気配を可能な限り消し、慎重に異変の場所へ近づく。
木々の隙間から視線を送った瞬間、彼の目に映ったのは、息を呑むほど美しく、目を離せない女神の裸体だった。
銀の髪を広げ、泡をまといながら身体を洗う、この世の存在とは思えないほど美しい少女の姿。
胸元を布でなぞる仕草は水面にきらめきを散らし、腰や脚を洗うたび、無防備な姿が痛いほど目に焼き付く。
さらに足元を洗い流す際の背筋から腰へと描かれる曲線が水に映え、芸術品のような美しさを帯びている。
やがて少女は少し深い場所へ姿を一旦消した。
そして水面を割って再び現れたとき、濡れた銀髪がその身体の所々を隠すように張り付く。
見えそうで見えない。その状況が彼を知らず興奮させ、その絶世の美少女の秘所を暴こうと惹きつけた。
一歩進むごとに髪は湖へ置き去られ、隠されていた部分が露わになっていく。
豊満でありながら形を崩さず重力に逆らう奇跡を魅せつけながらぷるんっと揺れ、彼の視線を完全に奪った
「……ふぅ」
やがて満ちたりたような吐息を漏らす美少女。
――それは旅の緊張から一瞬だけ解き放たれた少女の姿だった。
気づけば、ヴァルターは夢中で覗いていた。
理性を忘れ、ただ見惚れていたのだ。
意識が現実に引き戻された瞬間、やってしまった!?と、強烈な罪悪感と自責の念がヴァルターを苛んだ。
堅物であると皆に言われる自分が、少女の完全に無防備な姿を盗み見る。それは決して許されぬ行為だった。
だが、次の瞬間、別の思いが胸に芽生える。
(……違う。覗いた事実を隠すから、罪になるのだ)
彼女を恋人に、婚約者に、あるいは妻に迎えれば、それは罪ではない!
互いに認め合う者として、この美しい出会いを結び直せば、むしろ誠実な行為となる。
ヴァルターは深く息を吸い、決意を固めた。
(逃げれば卑怯者のまま。ならば、真っ直ぐに向き合い、堂々と求婚すべきだ)
覚悟を胸に、彼は葉をかき分け、湖畔へと静かに踏み出した。
裸身のまま水に佇む少女に向かい、誠実さと硬い決意を宿した瞳で歩み寄っていく。
――――――――――
「……ふぅ」
身体を流し、湖畔の浅瀬に戻ると、胸の奥から安堵の吐息がこぼれた、湖水の滴る髪をかき上げる。
――そのとき。
すぐ側の湖畔に、黒銀の鎧に身を包んだ逞しい青年が立っていることに気づいた。
「……っ!?」
私の心臓がドクンと跳ねた。
いつからそこにいたのか?
どうしてこんな所にいるのか?
答えが出ないまま、突然の恐怖が全身を支配する。
男に襲われた記憶が脳裏をよぎり、思考が真っ白になる。
声も出せずに立ち尽くしていると――
「……すまない」
青年が静かに歩み寄り、両手で私の右手を取った。
その掌は驚くほど熱を帯び、逃げ場を奪うように力強い。
「どうか、私の妻になってほしい」
「……え?」
唐突な言葉に、脳が追いつかない。
恐怖と困惑で固まる私に、青年は真っ直ぐな瞳を向け、さらに続けた。
「君を見た瞬間、心を奪われた。これは一目惚れだと断言できる。君のすべてを私のものにしたい。何者からも必ず守り抜き、決して一人にはしない。必ず幸せにすると、ここに誓おう」
その声音は真剣で、嘘がなく、まるで戦場で誓いを立てるように揺るぎなかった。
あまりにも予想外の出来事に、胸が強く脈打ち続ける。
驚愕し、そして言葉の熱に押され、思考が混乱したままだ。
一体どうすれば良いのか、何もわからなかった。




