第8話:注意事項の詳細確認と酔っぱらい
詳細を知りたいと考えた私は、発行待ちの間にアリシアへ声をかけてみることにした。
「アリシアさん、作業中に悪いのですが、少し聞きたいことが……」
「大丈夫です、後は自動で魔道具が発行してくれますので。……それで、ご質問は何でしょうか?」
私はすぐに本題を切り出した。
――冒険者に関する注意事項――
・冒険者同士の争いにギルドは関与しない。
・強者は特に尊ばれる傾向がある。
・冒険者の死亡率は50%以上と非常に高い。
・貴族からの命令によって「強制依頼」が下されることもある。
「……この小冊子に書いてある注意事項で、少し気になることがあって」
「はい、どの点でしょうか?」
「まず、“冒険者同士の争いにギルドは関与しない”これは問題が起きた時は、どう対応すればいいですか?」
「……その場合は、強者が正しいことになります」
アリシアはきっぱりと言い切った。
「力こそが冒険者社会の秩序です。もちろん、あからさまな犯罪や都市の治安を乱すような行為は別ですが、冒険者同士の小競り合いや報酬の取り合い程度では、ギルドは介入しません」
「なるほど……、“強者は特に尊ばれる傾向がある”という項目も、そういう意味ですね?」
「どこの国でも、力を持つ者こそが尊敬され、言葉に重みを持ちます。冒険者の世界では、弱者が正論を叫ぶよりも、強者の一言の方が通るのです」
弱肉強食の理屈が冒険者ギルドには反映されているのか。
まあ、暴虐を働く者であっても、押し通せるだけの強さがあれば優先されるのはある意味では当然かな。
この世界で強い個人というのは兵器のようなものだし、反抗は命に関わる可能性が高い。
「……もしかして死亡率50%以上にも関係がありますか?」
「はい。最大の理由は魔物討伐やダンジョン攻略での死亡です。しかしそれだけでなく、冒険者同士の争いも大きな割合を占めていますね。ギルドが関与しないからこそ、力のぶつかり合いが起こりやすいのです」
正解か……。
あとは、一番気になったこの注意事項。
「最後に……“貴族からの命令によって強制依頼が下されることもある”、とは、それは断れないと?」
「断れません。言葉通り“強制”ですから。ただし、拒否したいのであれば逃げるか、あるいは戦うしかありません。もし戦って勝てるなら、その時はギルドもあなたを支持します。……これが“強者が尊ばれる”理由のもう一つです」
……………………
「なるほど……。それでは、貴族と戦う場合、手段を選ぶ必要は?例えば暗殺したり、決闘だったりですけど」
アリシアは少し口を引き結び、声を潜めるように答えた。
「……原則としては“勝てば正義”です。どんな手を使っても、結果的に相手を打ち倒せれば問題にはなりません。ですが、気を付けてください。貴族を殺すとなれば、ただの依頼拒否では済みません。国の秩序そのものに刃向かう行為になります」
彼女は真剣な眼差しでこちらを見据える。
「だからと言って、手段を選び過ぎれば確実に潰される。強者として尊ばれるのは事実ですが、“生き残ること”が大前提です。命を賭ける覚悟がなければ、貴族との衝突は避けるべきでしょう」
私は小さく息を吐いた。
「……つまり、戦うなら殺す覚悟を持ち、逃げるなら徹底的に。中途半端は許されない。と」
アリシアは小さく頷き、少し声を落として付け加える。
「その通りです。貴族と争うということは、それだけのリスクをはらみます。……覚悟を欠いた者は、まず生き残れません」
重苦しい空気が流れたその時、場違いなほど陽気な笑い声が響いた。
「おおっと! なんだなんだ〜、おんなの冒険者はめずらし〜な〜」
振り返ると、昨日見た酔っ払ったおじさんが酒臭さと共に近づいてくる。
昨日の舐めるような視線が、ローブを纏っていない今では更に酷い。
……私の顔と胸を往復するように彼の視線がキョロキョロと行き来していた。
「オンジさん、すっかり酔いが回ってますね。普段はまだ頼れる人なんですけど……」
オンジというのか。
酔っぱらいの相手はしないに限る。
オンジを無視し、アリシアに冒険者証の発行状況を確認する為に受付に向き直す。
「よう〜、マブい姉ちゃん!冒険者なのか?ならオレの後輩だよな〜!」
「ええ、まあ……」と軽く受け流す。
――するとオンジは勝手に盛り上がり……。
「ならオレが〜手取り〜足取り〜教えてやろ〜、……腰取りもな!」
瞬間、下卑た声と共に、後ろから腕を回され、酒の匂いと共に背中にずしりとした重みがのしかかる。
「っ……!?」
「あっ……!」
あまりの暴挙に、それを見たアリシアが息を呑んだ。
周囲の人たちは只々驚き見ていることしかできなかった。
――その瞬間、ギルド内の空気が一変した。
――――――――――
「お…!…らか…て…る…ぷ……だ…!ってか…ブ…し…ない…ぁ!…レに…ま…たか…たんだ…!よ…じ…あ…接……」
酔っぱらい、好き放題な行為を続けるオンジの姿に、ギルド内の全員が戦慄していた。




