#73 師匠の答え
~おとめtheルル~
20代くらいの青年。
イラスト、アニメ、ゲームが趣味。
文章は丁寧に書き込むけど遠回りな表現は苦手。
小説の腕はアマチュアなので、優しく見守ってね。
#73 師匠の答え
人気俳優、土浦晋の友達でお笑い芸人の宇連泰三。
人気が伸びない彼を応援するため、みんなで彼の公演を見に行ったのだが
素晴らしいとは言い難い内容だった。
その様子に申し訳なくなった晋兄が感想会という名目で
ファミレスの一角を貸し切りにして招待する。
その間、(なぜか)その公演を見ていない由珠羽から厳しい意見をもらった泰三は
自身の愚かさに落ち込んでしまった。
そのとき、落ち込む泰三に姉がボケを要求。
立場が逆転し、関西のお笑い芸人として負けてられないと心に火がついた泰三は
そのまま姉に弟子入りを申し込んだ。
...ということで売れないお笑い芸人を弟子に迎えたこの翌日。
姉や僕と一緒にやりとりをしている間に、普段の泰三と公演中の泰三には
大きな違いがあることに気がついた僕なのである...。
公演前に、公園に集まっている3人。
今度は姉が話しかける。
「...ねえ、泰三さん?あなた、ちゃんとボケもツッコみもできるじゃない。
どうしてそれ(普段)をそのままネタにしないの?」
なっ...と驚く泰三さん。
「...いや、ネタの中の自分と、普段の生活とはちゃうわけやから...」
ネタというのはあくまで仕事。
つまり、自分で作ったネタなのに、自分という存在がいなかったのである。
だから由珠羽の言うように自分が楽しいと思える内容になっていなかったのか。
これを理解した姉が言う。
「それならさ、ネタに自分という存在を組み込んでみよっか。」
すると突然、公園でベタベタ、と
ハイハイしながら進み出す姉。
「はい...?」
「ほらほら、ツッコんでツッコんでっ!」
今さらだけどメンタルどうなってるんだ僕の姉(この人)...
そしてよそ見をして進んでいると、公園を歩いていた人にぶつかってしまう。
「うおっと...?!」
「きゃあっ...!ごめん、なさ.....」
姉が謝ろうとして顔を上げると、そこにいたのは...
「何...してんっすか...?」
何と美歩だった。
後ろに水野さんと優衣奈もいる。
「おおおお姉さん、大丈夫ですか?!
昨日からずっと様子が変だと思っていたんですが...」
水野さんは美歩よりも姉の心配をする。
「あっ。昨日の公演会の人じゃん。こんなところで何してるの?」
優衣奈は優衣奈で泰三さんのほうに目をやっている。
「いやっ、師匠もみんなもちょっと自由すぎやーっ!!」
...へえっ?
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とりあえず美歩たちにも事情を説明することに。
「ああ、昨日のあれ冗談だと思ってたっすよ。」
「うん、私も。」
美歩と優衣奈は軽く言う。
どうやら本気で弟子入りしたと思っていなかったらしい。
「...で、でもどうしてお姉さんは
4足歩行をするという流れになるんですか?!」
それは僕にも分からない。
急に姉が4足歩行しだしたからな...
しかし泰三さんには何か得るものがあったらしい。
「いや、それは自分に、「素の自分」というものを伝えようとしたからや...」
...?、とみんなの視線が泰三さんに集まる。
「実はな、今まで、自分の楽しいっていう気持ちよりも
努力と根気だけでなんとかしようっていう考えでネタを考えてきてん...」
は、はあ...という感じのみんなを置いて話は続く。
「その結果、ネタには面白さとか自分の気持ちよりも
学んだことをそのまま書き出しただけになってたんやな...
なんて言うか、すべてが棒読みになっていったという感じ...」
泰三さんの視線は段々下を向く。
「それで客が来んのは自分の努力が足りんから。
だから、棒読みのままの努力でなんとかしようとする...」
顔の下で拳を握ると少しずつ顔を上げて続ける。
「けれど昨日のみんなの反応と、
師匠が素の自分を引き出してくれたおかげでやっと気がついたわ。
努力するのも大事やけど、まず自分がそれを楽しまなアカンねん...!」
そしてひと息入れたあと姉のほうを見て再び続けた。
「ほんまにおおきにな、師匠。
これからのネタは、素の自分から湧き出てくる
自分の楽しいを基準に考えてみるわ...!」
姉の手を握ってお礼をする泰三さんに戸惑うみんな。
「あ...ま、まあそういうことね!!私が教えたったことをすべて
理解するなんて...!あなたはもう弟子卒業よ!」
にしてもどうして姉の4足歩行だけでここまで響いたのか...
「おっと、すんません。
そろそろ次の公演があるので一旦失礼しやすね、ではっ!」
こうして颯爽と公園を駆け抜けていく泰三さん。
美歩はポカンとしたまま、駆ける泰三さんを目で負っている。
一方優衣奈は立ったまま眠っていた...
...水野さんが姉にハンカチを渡す。
「よ、4足歩行で手が汚れてますよ...どうぞ...」
ああ、ありがとう、と言ってハンカチを受け取る。
しかし素の自分を伝えるのにどうして4足歩行になったのかは
誰も知る由がないのであった...。
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公演会が終わったこの日の夜。
泰三さんに誘われたのは居酒屋。
未成年の僕は行かず、姉だけが行くことに。
「師匠ーぅ!全っ然ダメっしたぁーー...!」
「泰三ーっ!!今日の今日でそんなにうまくいくわけがないよーっ!
慌てず少しずつ...ねーっ?!」
「うううううっ...!」
...2人とも酔っている様子。
この状態で話は大丈夫なのだろうか...。
「はあ、自分の楽しいをお客さんに届けるのって難しいねんなぁ...」
「いや、その前にお客さんおらへんやろ!」
「さっすが師匠ぉぉー!今日もキレッキレやなぁ...!!」
こうしてすっかり友達(飲み仲間)としても
距離が近づいた姉と泰三さん。
深夜になるまで飲み、店を出たその帰り。
「それじゃ、師匠、お疲れっした...!」
「大丈夫?まだ酔ってるみたいだけど...」
姉のほうが先に酔い覚めしていた。
「だいじょぶだいじょぶー!家近いんでもう帰れるでぇ....」
「うん、やっぱ送っていこ。」
---こうして無事にホテルまで送り届けられた泰三さん。
ホテルの前ではマネージャーがとても心配して待っていた。
「ええっ、一緒に飲みに行ってくれてたのって、あなただったんですか...?
すみません、うちの管理不足で...」
頭を下げる彼女。
しかしマネージャーと言ってもその人は泰三の奥さんで、
マネージャー初心者だった。
...っていうか奥さんいたんだ、この人。
「いえいえ、大丈夫です...」
すると酔った泰三さんを見て一瞬睨みつけた様子だったが、
すぐに笑顔になって、
「あとで厳しく言っておきますので、ご安心を...」
姉にそう伝える奥さん。
これは大変なことになりそうだなと思った姉は
軽くお辞儀してすぐにホテルを後にした...。
---帰り道。
大通りを歩いていると、路地裏に人が消えていくような姿が見えた。
「あれっ、消え...た?まだ酔ってるのかなあ...」
そう思って目をこすってみるが、やはり人は見当たらない。
気になって近づいてみると...
「君。こんなところで何をしているのかね?」
突然警察官に声をかけられた。
「飲みに行った帰りか?こんな深夜に若い女の子ひとりでは危ないぞ。」
そう伝えていると、パトカーから別の警官が降りてくる。
「最近ちょうどこの辺りで失踪事件が相次いでいてな。
目撃情報によると、この付近にいた人が突然いなくなったとのことで...」
「えっ、あの路地裏のほうとか?!」
しかし警官は、そこに人が消えたことなど信じてくれなかった。
「...とにかくここは危ない。家まで送ってあげるから一緒に来なさい。」
こうして姉は警官に家まで送り届けられるのであった...。
続く...
はじめまして、おとめtheルルです。
クスッと笑える作品を作りたくて文章を書きはじめました。
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