まさかの結婚編
ある日、突然の報告
坂上武、58歳。
鉄郎、推定20歳(鉄塊歴20年)。
武が晩酌をしていると、会社の同僚が訪ねてきた。
「坂上さん……鉄郎くん……ついに結婚するそうです。」
「……え?」
相手は誰だ?
同僚の説明によると――
鉄郎の職場に、新しい重機が導入された。
名前はアイアン子。
最新式の美しいフォルムと、頑丈なフレームを持つクレーン車。
社員たちは言った。
「鉄郎とアイアン子ちゃん、めっちゃ相性良いな!」
「重機同士、いい夫婦になりそうじゃね?」
そして冗談のはずが、いつの間にか本気に。
プロポーズ
武は二人(?)のもとへ急行。
現場の片隅で、鉄郎とアイアン子が並んでいた。
武は泣きながら言った。
「て、鉄郎……お前……相手が重機って……最高じゃないか……!」
アイアン子はエンジン音を低く鳴らした。
それはまるで照れ笑いのようだった。
結婚式
式場:会社の建設現場
参列者:現場作業員全員+町内の子供たち
バージンロードを進む鉄郎とアイアン子。
司会の所長が涙をこらえつつ読み上げる。
「……重く、固く、そして揺るがぬ二人が……
今ここに、鉄の絆で結ばれます……!」
誓いの言葉
武が神父役を買って出た。
「鉄郎……お前はこの鉄の奥様を一生大切にするか……?」
鉄郎は無言。
アイアン子がエンジンを小さくブオン、と鳴らした。
それが誓いの証だった。
祝福の中で
社員たちはクラッカーを鳴らし、
子供たちは鉄郎の横腹をペチペチ叩いて祝った。
武は一番後ろで泣いていた。
「父さん……幸せだ……お前に家族ができるなんて……!」
新婚生活
鉄郎とアイアン子は、現場に並んで置かれる。
昼間は一緒に働き、
夜は社員たちにオイルを注がれてピカピカになる。
誰もが言った。
「お似合いだな〜。」
そして――
武は夜空を見上げてつぶやく。
「鉄郎……お前の幸せが……父さんの幸せだ……。
家族が増えたな……。」
鉄郎は何も言わない。
しかし、隣のアイアン子と一緒に月光を反射し、
まるで笑っているように見えた。