鉄郎、就職する
坂上武、56歳。
鉄郎、推定18歳(鉄塊歴18年)。
卒業後、鉄郎は進学せずに就職を選んだ。
武は泣きながら履歴書を書いた。
面接の日
企業面接会場。
スーツを着せられた鉄郎が、台車に乗せられて面接室にゴトゴトと入ってくる。
面接官は沈黙した。
武が隣に座り、深くお辞儀する。
「鉄郎は無口ですが……責任感は鉄のように重く……誠実さも鉄のように固いです……!
どうか……どうか……ご採用を……!」
面接官は小さくうなずいた。
配属先
鉄郎の初めての職場は――
地元の建設会社。
役職:現場の守護神(バリケード兼シンボル)
現場監督は言った。
「いや〜坂上くん(鉄郎)は置いとくだけで不法侵入ゼロだし、
社員も気合入るんだわ!」
仕事ぶり
鉄郎は現場の入口にドーンと置かれる。
作業員は言う。
「鉄郎がいると事故が起きない気がするんだよな。」
「俺、あいつの前じゃサボれない。」
どこの現場でも人気者だ。
子供が通りかかると「鉄郎くん!」と呼ばれる。
給料日
武のもとに給料袋が届く。
もちろん、銀行振込など鉄郎には無理なので、
現金手渡し。
武は封筒を握りしめて泣いた。
「鉄郎……お前が稼いだ金だな……父さんのために……いや、貯金しような……!」
社員旅行
会社の社員旅行で温泉地へ。
鉄郎は台車ごと旅館に搬入される。
宴会場の真ん中に置かれ、社員たちはカラオケを熱唱。
鉄郎は無言だが、どこか楽しそうに光を反射していた。
父の胸の内
夜、社員旅行の宿の縁側。
武は缶ビールを開け、鉄郎の横でつぶやいた。
「お前……もう一人前だな……。
現場の仲間に頼りにされて……給料ももらって……。」
「父さんの役目も……もう、終わりかもしれん……な……。」
鉄郎は何も言わない。
虫の声と川の音。
その無言が、武にはすべての答えだった。