中学二年、鉄郎の修学旅行決定!
坂上武、52歳。
鉄郎、推定12歳(鉄塊歴12年)。
担任の先生から電話があった。
「坂上さん……今年の修学旅行、鉄郎くんも一緒でよろしいでしょうか……?」
武は号泣した。
「せ、先生……ありがとうございます……ありがとうございます……!!」
行き先:京都・奈良
行き先は定番の京都・奈良。
クラスのみんなはワクワク。
武もワクワク。
鉄郎は……無言の鉄塊。
出発当日
大型バスのトランクに、
慎重に積み込まれる鉄郎。
運転手が泣いた。
「これ、貨物じゃないんすか……?」
先生が答えた。
「生徒です。」
バスの中
子供たちはお菓子パーティー。
鉄郎は通路に転がされ、
その上で男子たちがポテチを食べ、
女子たちが鉄郎を背もたれにして寝ている。
武は想像した。
「お前……クラスにとけこんでるな……父さん嬉しい……」
京都観光
金閣寺を背景にクラス集合写真。
カメラマン:「真ん中の鉄の塊、ちょっとずらしましょうか?」
先生:「いえ、彼が主役です。」
おみやげタイム
クラスメイトが鉄郎に買ったお土産:
・鹿の角の置物
・舞妓さんの絵葉書
・八ツ橋
鉄郎は無言で全部背負わされた。
旅館の夜
男子部屋、枕投げ。
鉄郎の上に登って飛び跳ねる男子たち。
「鉄郎、最強のバリケードー!」
「鉄郎の後ろなら安全だー!」
枕投げの戦況は鉄郎の周りを中心に大混乱。
恋バナ
夜更け、男子たちが鉄郎を囲んで恋バナ。
「鉄郎、お前好きな子いる?」
無言。
「やっぱお前、無口なだけでモテるよな〜」
武はこっそり泣いていた。
奈良公園
鹿が鉄郎に体当たりして角が折れた。
鹿せんべいをあげようとした子供が言った。
「鉄郎くんは何も食べないんだよ?」
鹿は不思議そうに鉄郎を舐めて去っていった。
帰りのバス
車窓に夕陽。
疲れ果てたクラスメイトが鉄郎にもたれかかって眠る。
武はつぶやいた。
「お前……ほんとに大きくなったな……重さも倍だ……」
鉄郎は黙ったまま、最後まで修学旅行の思い出を刻んでいた。