小学高学年――鉄郎、思春期(?)を迎える
坂上武、50歳。
鉄郎、推定10歳(鉄塊歴10年)。
最近、武は悩んでいた。
鉄郎の様子がおかしいのだ。
「おい鉄郎、今日も磨くぞ〜!」
ゴシゴシ……
鉄郎は無言。
いつも通りだが、どこか冷たい(元から冷たい)。
兆候
ある晩、武は衝撃の光景を目撃した。
武の部屋の隅に、鉄郎が勝手に転がっていたのだ。
普段は寝室の定位置に置いてあるのに……!
「て、鉄郎……!?
お前、勝手に部屋を移動したのか……!?
そ、そうか……父さんのそばを離れたい年頃か……!」
武は泣いた。
学校でも異変
担任から連絡が来た。
「坂上さん……鉄郎くんですが……最近、校庭の隅に転がっていて授業に来ないんです……」
「なんだって!?」
鉄郎は無言のまま、校庭の片隅で太陽を浴びて錆びていた。
子供たちは言った。
「鉄郎くん、最近クールになったよね。」
「鉄郎くん、前は教室にいたのに……」
父と息子の話し合い
その夜、武は鉄郎の前に正座した。
「鉄郎……話がある。」
無言の鉄郎。
「お前、最近父さんの言うこと聞かないな……。
お前にも考えがあるんだな……。
大人になるって、そういうことだよな……。」
鉄郎は一切動かない。
「わかった……好きにしろ……だが、錆びるのだけは許さん!!」
翌朝、武は涙を流しながら鉄郎を必死に磨いた。
家出(?)
ある夜。
武が目を覚ますと――鉄郎がいない。
庭にも、ガレージにも、鉄棚にもいない。
「て、鉄郎……!!
お前、ついに家を……!!」
武は町中を探し回った。
朝、近所の公園にあった鉄郎の姿を見つけた。
公園の遊具の横に、誇らしげに転がる鉄郎。
子供たちが登って滑って遊んでいた。
和解
公園で泣き崩れる武。
「鉄郎……お前……父さんから離れて……みんなの鉄郎になりたかったのか……!」
無言の鉄郎。
子供たちの笑い声。
武は悟った。
「いいんだ……お前が笑顔を生むなら……お前はもう……俺だけの鉄郎じゃない……みんなの鉄郎だ……!」
その夜
鉄郎は何事もなかったように、いつもの場所に戻っていた。
武はビール片手に笑った。
「反抗期、終わりだな……」
鉄郎は何も言わない。
だが、月明かりを浴びた鉄面がどこか照れているように見えた。