運動会編
秋 ― 運動会シーズン到来
小学校最大のイベント、運動会。
赤組と白組に分かれて、子供たちが全力で競い合う日。
坂上武は、もちろん泣いていた。
「て、鉄郎……お前が運動会に出る日が来るとはな……!!」
隣で鉄郎は無言の鉄塊である。
開会式
グラウンドに並ぶ子供たち。
その中央に、赤いハチマキを結ばれた巨大な鉄郎が鎮座している。
「鉄郎くん、無敵だから赤組絶対勝つわ!」
「鉄郎くん、かっこいい!」
担任は青ざめていた。
「えー……それでは、はじめの言葉……鉄郎くん……」
……当然、無言。
武がすかさず補足。
「鉄郎の代わりに、私が言います!
『がんばります!!』」
拍手喝采が起きた。
かけっこ
1年生の目玉種目、50メートル走。
子供たちはスタートラインに並んだ。
鉄郎は……地面のど真ん中にドーンと設置された。
スタートのピストル。
パンッ!
みんな一斉に駆け出す!
鉄郎は動かない。
でも、なぜかみんな鉄郎の周りを避けて走るので、ゴール付近では鉄郎の存在が障害物になり、
みんな同じくらいのタイムで仲良くゴールした。
玉入れ
次は玉入れ。
子供たちは鉄郎の頭の上に乗ったカゴを狙う。
鉄郎は動かないので、的として完璧。
「鉄郎くんのカゴ、絶対入る〜!」
「鉄郎くんのカゴだけ満タン!」
武は誇らしげに腕を組んでいた。
親子競技
クライマックスは親子競技。
赤白混合で、親子で手を繋いで走り、障害物を越える。
武は鉄郎の脇にしっかり腕を回して全力疾走!
他の親は子供を引っ張るが、武は鉄の塊を引きずる。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!
負けるかあああああああああああ!!!」
観客、爆笑。
武の腰は終わった。
表彰式
赤組が勝った。
みんな鉄郎を胴上げ……はできないので、代わりに鉄郎の周りで踊った。
武は倒れながら笑った。
「鉄郎……お前は最高のチームメイトだ……!」
鉄郎は無言で秋の夕陽を反射していた。