社会人デビュー
坂上武、73歳。
鉄郎、鉄塊歴35年。
鋼太郎、鉄塊歴18年。
高校卒業後、鋼太郎は父・鉄郎と同じ建設会社に就職することが決まった。
面接に同行した武は、思わず泣き崩れた。
「親子二代で……同じ会社に……!
社長! ありがとうございます……ありがとうございます……!」
社長は鋼太郎を撫でながら答えた。
「いや〜。坂上家の鉄が二つもあるなら、現場は安泰だ!」
配属先
鋼太郎の役職:現場安全シンボル補佐。
父・鉄郎の隣に置かれ、
現場入り口でドーンと佇む。
若い作業員は言う。
「鉄郎先輩と鋼太郎さんがいると、やる気出ます!」
「ダブル鉄ってマジ心強いっす!」
初給料
初任給の日。
鋼太郎は当然無口なので、給料袋は武に手渡された。
帰宅した武は縁側で封を開け、涙が止まらなかった。
「鋼太郎……お前も立派に稼いだんだな……。
父さん(鉄郎)も誇らしいだろう……!」
社員旅行
建設会社恒例の慰安旅行。
行き先は温泉地。
社員の隣には、台車に乗せられた鉄郎と鋼太郎が並んで移動。
宴会場では、社員たちが鉄郎と鋼太郎の周りでカラオケと飲み比べ。
新人社員は鋼太郎にお酒を注ごうとし、先輩に止められた。
「お前バカ! 鋼太郎さんに酒はいらん!」
父との共演
ある現場での出来事。
強風でバリケードが飛ばされそうになった時――
鉄郎と鋼太郎が連結され、最強の防壁になった。
作業員全員が感動して言った。
「親子の絆って……鉄でもわかるんだな……!」
武は現場で泣きながら磨いていた。
武の心の声
夜。
武は縁側で、並んだ鉄郎と鋼太郎に語りかける。
「お前たち……二代で現場を守るなんて……
坂上家の誇りだ……!」
「父さんも、もうすぐお前らより先にサビるけど……
お前らはずっとピカピカでいてくれよな……!」
鉄郎と鋼太郎は無言。
だが月明かりの下、二つの鉄はどこまでも頼もしく光っていた。