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レッスン4 ……かわいいです!

 私たちは化粧水の正しい付け方を動画でチェックした。


『まずは~500円くらいの化粧水をね~』


 ミーチューバーで人気のかわいい女性が解説をしてくれる。言葉通り化粧水500円玉ほどを手のひらに乗せるとこぼれそうになった。慌てて、永野くんはティッシュをサッと取って私にくれた。


「思ったより化粧水がサラサラしてる! ちょっと焦ったよ……」

「ってか、これコットンに染み込ませればいいんじゃないですかね?」


 確かにそうだった……私たちは化粧水をぺたぺたと肌につけ、動画を再び見た。


『乳液をつけたら手でじっくり押さえて~なじませるのォ~』


 ミーチューバーの言う通りに、肌につけてみたのだけれども。


「なんか私はダメ。ヒリヒリする……合わないのかも……」

「体質もあるかもしれませんね。とりあえず、こっちの化粧水サンプルならどうですか」

 

 うん、そうだ。

 肌質もあるもんね。私はもらったサンプルを試してみよう。

 眉毛をキレイに整え、次は髪の毛を……。


「かわいい髪型、ってどれかしら。永野くんの好みはどれ?」

「お、俺のですか……? や、矢崎さん……もしかして、俺の好みに合わせてくれるんですか!?」

「合わせるかどうかはともかく、教えてくれる?」


「もちろんです……俺なら肩くらいまでの長さにハーフアップです。そこでバレッタをつけたりシュシュつけているといいなあって思います。でも、ポニーテールも捨てがたい。いやでも三つ編みも真面目そうで味があっていいなって思うけど。ああ、ベリーショートよりかはボブがいいし……あっでもやっぱり一番はロングの髪の毛がたまらな――」


「ごめん、もういいわ」


 まだぶつぶつといっている永野くんを放置し、私はヘアカタログを眺めた。


「それにしても、布ヘアゴム(シュシュ)髪留め(バレッタ)ってよく知ってるわね。だって、永野くん、使わないでしょう?」

 

「俺は使いませんが。妹にヘアセットをやれ、っていわれるんですよ」

「ってことは得意?」

「一通りならできます」

「じゃあ、私にちょっとやってくれる?」

「ひゃいっ!?」


 不思議な声を出した永野くんに、姉秘蔵のバレッタとヘアブラシを渡した。


「いや、でもその……いいんですか? は、背後をとりますよ!」


 なんだか暗殺者のようなことを。

 語彙力が相変わらず不思議すぎる。


「私も後で永野くんにやるから」

「いや、毛づくろいじゃないんだから……じゃ、じゃあ……やりますよ」


 私の後ろに座った。

 とたんに、なぜか距離の近さが際立つ気がする。あれ、なんだか……化粧水にまぎれて永野くんの汗の匂いか、髪の匂いかが鼻に届く。


 なんでだろう、意識、してしまっているような。

 永野くんに? 私が……?

 すっと首筋に触れられ、びくりと思わず体が反応した。


「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」


 心臓の鼓動を誤魔化すように、必死で化粧水の瓶を見ている振りをした。そのまま櫛の通る音が響く。やがて心地よさが身を包み、少し眠くなってきた。


 うとうととしていると、「できましたよ」といわれ、我にかえる。

 手鏡を覗いてみると、そこにはハーフアップでバレッタがワンポイントになっている私が映っていた。


「うわ、なんか……すごい。永野くん、上手いね」

「ありがとうございます。でも、その、矢崎さんも……か、かわ……」

「かわ?」

「その、いえ、なんでもないです」


 永野くんは私から離れて逃げようとしたので、ガシッと掴んで引き寄せた。


「ちょっと! 永野くん、私たちのルールは?」

「……お互いを褒め合うことです」

「じゃあ、この場合は? なんていうの?」


 意を決したように永野くんは私の眼をしっかりと見てきた。


「かわいいです……矢崎さん」


 よしよし、と満足していると、ぐいと顎を持ち上げられ――。


「矢崎さん、かわいいです! これでどうですか」

「も、もういいわ!」


 まさか、二度もいわれるとは思わなかった。

 今度は私が永野くんから離れ、慌てて咳ばらいをする。


 そう、これは私たちにとって必要な努力であり、修行。だからこの程度。

 ドキドキしているのは、きっと慣れてないからで。

 

 なんだろう、この調子で……ずっと? 

 明日からも……大丈夫、だよ、ね……?  

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