レッスン2 カフェで人間観察
翌日、夏休み初日。
私たちは、駅前で落ち合った。永野くんの服装をざっと見やる。『lemonade』……レモネードと書かれている緑のTシャツだ。しかも書かれているイラストはコーヒーだし……いったいそれは何? と心の中でツッコむ。
しかし、これがまた私自身も人の事をいえたものではない。淡いピンクのワンピースに茶色のカーディガンだが、出かけ間際の姉曰く『うわ、ダサッ』ということだ。しかし、今の私には何がどう『ダサい』のかがわからなかった。それを、きちんと学ばなければ。
「ひとまず人間観察よ。周りの人たちから、足りないものを学びましょう。だから、カフェに行くからね。ちなみに強制だから」
「カフェで……ですか」
再び、永野くんは私をちらちらと見やる。
「文句があるの?」
「文句じゃないです。……でも、カフェで2人なんて、本格的にデートっぽくて、その」
こりない男だ。
「私たちは?」
「空気です」
「よろしい」
もの言いたげな瞳を無視し、私はついレモネードを頼んでしまった。
駅前のカフェでガラス張りのテーブルにつく。雑多とした周りの人に気を配り、その人たちのメイク、服装、靴やカバンにいたるまで、素敵だと思う人たちを入念にチェックする。
……色合いかも。
永野くんは、その間じっと私の方を見ていた。
「なんか、お話しましょうよ……だまりこくって、外を眺めてるなんて、つまらないですし」
「……どういうのが好み?」
「いや、話はしたいっていいましたけど、突然なんの話ですか……?」
永野くんのツッコミに、私はイスの背にもたれた。ストローをくるりと回し、つんと指でつつく。
「あなたの好みよ。どんな女の子が好みなの?」
「え、そんな……なにを……どんな回答を期待してるんですか……!」
かあっと耳まで赤くなって黙りこくったので、私はしびれを切らし窓ガラスをとんとんと叩いた。
「いいなと思う女の子のタイプを教えて、オシャレの参考にしたいの。じゃあ、そうねえ……あのバス停にいる女子の中から選んで」
「そっちから!?」
不服そうにしながら、永野くんは「しいていえば、なんですけど……あの髪の長い子かなあ」といった。
確かに清楚な雰囲気と、赤いバッグが差し色として映えている。なるほど、良いところに目を付けた。確かに、他の子もかわいいけれども、センスがいい。
ワンポイントで目立つ色を入れるのはアリなのかもしれない。
「いやでも、あの子が好みってわけじゃないですからね、そんなに俺、惚れっぽくはないですから」
「なんとなくわかった」
「ほんとに伝わってます?」
前のめり気味に質問してきた永野くんを押しのけ、私はずずっとレモネードを喉の奥へと流し込んだ。
「ところで永野くん、あなたレモネード好きなの?」
「どちらかといえば嫌いですけど」
もはやツッコむ気にもならないので、彼のTシャツの英文字については
触れずにしておいた。さて、ある程度の情報は頭に叩き込んだしとテーブルに手をつけ、立ち上がる。
「よし、それじゃあ、いくわよ」
「どこに?」
レモネードのグラスを片手に持ち、片付けるわよ、と態度で表した。
「私の家に」
「へ!?」
永野くんは、驚きのあまり、グラスを倒した。