レッスン1 敗北を喫して
私たちは、渋谷でも名高いオシャレな店内にいた。店内はまばらな人影。
とはいえ私たちは、周りにいる人たちと妙に浮いている気がした。けれど、かまわず店内の服を見繕う。
「こんな服なんてどうですか? 茶色ですけど」
永野くんが持ってきたのは、オーバーサイズのトップスだった。合わせてみるが、違和感がある。
「なにか変ね。それに、オシャレイケメンなら、茶色っていわずにチョコレート色っていうのよ」
「え、マジですか。奥が深い……」
永野くんは髪の毛が黒いのだから、別の色の方が合うのかも。ああでもないこうでもないと私たちが試行錯誤していると、女性店員さんが近寄ってきた。
「なにかお探しですか?」
すると永野くんは私の後ろにサッと隠れた。
「うわ、超美人……眩しいです」
……つまり、私は大したことがないと?
腹が立つ、といいたいけれども事実だから、仕方ない。ため息をつきそうになったが、こらえ店員さんの問いに私は返した。
「えっと、私たちに合う服がないかなって探していて」
「あらあ、それなら……残念だけど――」
ここにはないわ、と言いたけな瞳だった。私と後ろの永野くんを一瞥し、出直してらっしゃい、といいたげな瞳を向けてくる。多くは語らない、察しろということだろう。値踏みされたことに腹が立ったが、直接”そう”だといわれた訳ではない。グッと私は唇を噛み締める。
「あのう」
私たちの後ろから、別の客が声をかけてきた。店員さんは、そちらに対しては驚くほどの笑顔で対応した。私たちをその後みることもなく、レジにいき談笑している。あなたたちは客としてみていないです、そんなことをいわれた気がする。
悔やしい、悔しくて仕方ない。けど。
「永野くん、行こう」
パッと手をとって、店を飛び出した。
「いいんですか? だって……俺ら、まだ服を買ってませんよ?」
「うん、大丈夫。あの店ではないみたい……というより、私たちにはまだ早かったわ。まずは、基礎の基礎だった。とにかく外見から整えましょう」
泣きそうだ。
ただ、服ひとつ買うだけでも、こんな。
こんな、扱いで。
永野くんは店員さんの悪意に気づいていない。
――ううん、それで、良かったのかもしれない。
今度はファストファッションの店にいった。ここは、庶民の味方、誰でも着れる服。安心してゆっくりと見た。声をかけてくる店員さんもいない。というより、自分から必要なら声をかけなければならない。
「私たち、似合う服が欲しくて」
親身になって選んでくれた。店員さんは、いくつか服をピックアップしてくれる。服はオシャレだが、これも私たちが着ると着せられている感じもある。
「ごめんなさい、また、きます」
せっかく相談したのだけれど、やっぱり違和感を隠せない。心から謝って、店を後にした。店員さんはいい人で、またきてね、といってくれた。買わないんですか、と永野くんはいうけれども、やはりまだ違うのだ。
そこでいったん別れて、私たちは翌朝、学校に行った。