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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SISTAR✕HUNTER

作者: 柴佐倉

「主よ、あなたの恵みに感謝します。私を愛し、助けて下さり、いつもそばにいて下さる事に感謝します」

ここは狭山(さやま)サンタ・マリア教会。この街では古い教会で、皆の心の拠り所となっている。

そして、朝の祈りを終えた狭山健都(さやまけんと)18歳、高校3年生。狭山サンタ・マリア教会の神父だ。短髪に長身。色素が薄い為、よく外人に間違えられる。

「さて、サボり魔達を起こしに行きますか」

隣にある家に向かい、部屋のドアを勢い良く開け、大声で叫ぶ。

「起きろー!一都華(ひとか)二都(にこ)三湖都(みこと)!」

バシバシと頭をハリセンで順に叩いて行く。

「う〜もう飲めない」

二日酔いの長女、一都華。

「いつも名前にちゃんとお姉様を付けろと言ってるだろう…」

気だるげな声でタバコに火を着ける次女、二都。

「まだ眠いー」

布団にしがみつく三女、三湖都。

そう、この三姉妹は健都の姉達。三つ子なのだ。

この三つ子、顔や体型はそっくりだが見分けるポイントは髪色と髪型。

長女、一都華は薄いピンク色のショートカット。

次女、二都は抑えめな金髪にウェーブの掛かったロングヘア。唯一、眼鏡で口元にホクロがある。

三女、三湖都は淡い水色のミディアムヘア。

この髪色になる前はよく間違えられたものだ。それはさておき…

「お前達、シスターなのに朝の祈りをサボるとはどういう事だ!ええっ!?」

ハリセンで手をバシバシと叩く鬼の形相の弟。

「頭に響く…」

「…次はちゃんと起きるから、大声うるさい」

「だって眠いんだもん〜」

口々に文句を言う姉達。これでもシスターとなると「狭山美人三姉妹」として街で有名なのだ。だがこの体たらくぶり…。

「いつもそう言って毎回起きないクセに…全く。朝メシ作るからそのだらしない格好を着替えて速く来い!」

ドアをバンッと閉める。

何だかんだ言っても姉達には甘い健都ママ。

家事は基本、健都がしている。最初は分担制にしていたのだが姉達は料理や掃除・洗濯が壊滅的だった。料理は消し炭になり、掃除をすれば物を壊し、洗濯はアイロンで焦がす始末。それで一番マトモな健都が引き受ける事になったのだ。頼むのは洗濯物の取り込みとゴミ出しだけ。

どうしてそのようになったのか?

それは姉弟達に両親がいないから。

とある事件(・・)で亡くなったのだ。

それからはしっかり者の長男・健都が両親に代わり、この教会を引き継いだ。

「天の父なる神様、あなたの恵みに感謝して、この食事をいただきます。私達の心と体を支える糧として下さい。イエス・キリストの御名によって、アーメン」

「「「アーメン」」」

食事の前の祈りを捧げる。

「かぁ~!二日酔いにはやっぱりアサリの味噌汁だな。さすが健都」

「褒めても何も出てこないぞ。それより昼間のお務めはサボるなよ」

「分かってるって」

「本当か?」

「お姉様達を信じなさいよ」

「俺は神しか信じない」

「うえー。トマト嫌い〜」

「残したら次からメシ抜きだからな」

いつもの朝食風景。これが日常となっている狭山家。

「それじゃあ俺は学校行ってくるからくれぐれもさぼるなよ!」

「「「はぁーい」」」

「返事だけは良いな…。行ってきます」

「いってらっしゃーい」

「気を付けて行きな」

「行ってら〜」

そうして姉達に見送られながら健都は学校に向かった。

健都が通っている学校は中高一貫のミッションスクール。もちろん三姉妹も通った学校である。部活には教会での仕事があるのでどこにも入っていない。だから夕方前には帰ってくるだろう。

その為、土日祝日を除いて神父である健都がいない間は三姉妹が代わりを務める。

「さぁて、今日もお務め頑張りますかぁ」

長女、一都華の掛け声で三人は礼拝堂へ向かった。


登校中、声を掛けられる。

「おはよう、建都」

「おはよう、(ばん)。今日は登校できたのか。良かったな」

「ああ、今日は調子がいつもより良くてね」

千井家(ちいけ)(ばん)。同じクラスで仲の良い友達。中学からの付き合いだ。

彼も色素が薄く、白い肌に赤い瞳を持っている「色素が薄い」仲間。ただ体が弱く滅多に登校する事ができない。登校してもよく保健室にいる事が多いのだ。肌も弱いらしく日光に当たると(ただ)れてしまう病気らしい。なので今は日傘を差している。

「今日の体育、サッカーなのに残念だな」

「仕方ないよ。僕は長時間日光に当たれないから。日陰で見学して建都の雄姿を見る事にするよ」

建都は運動神経が良い。サッカーはその中でも一番得意だ。

「ははっ。勝利を祈ってくれよ」

笑いながら提げていたロザリオを見せる。

「うん…」

「ん?」

何だか顔色が悪いような気がする。

「大丈夫か?本当は体調悪いんじゃないのか。無理なら保健室まで背負って行くぞ」 

力には自信がある。それに万は小柄で細い。

「大丈夫だよ。建都は優しいね。僕なんかに優しくしてくれて」

「何を言ってるんだよ。友達だろう?」

「ありがとう」

ニコリと笑う万。

チラリと八重歯が見える。


その頃、教会では。

「主の御前で罪を告白しなさい。恐れることはありません。神の愛は無限です」

懺悔室(ざんげしつ)の今日の担当は二都。

「告白します。私は、私は…妻を殺してしまいました!」

声からすると中年の男性だろう。

「何故そのような過ちを?」

殺人事件の告白なのにあくまでも冷静な二都。この手の話には慣れている(・・・・・)からだ。

「昨日、仕事から帰ってきたら突然、私に襲い掛かってきたのです。『血が欲しい、血が欲しい』と言いながら。まるで吸血鬼のように青白い顔で牙を剥いて…。それで力一杯振り払ったら妻はタンスに思い切り頭をぶつけ、血を流して倒れました。遺体は倉庫に運んであります…。あの、あの!これって例の(・・)吸血鬼事件ですよね!?」

吸血鬼事件ー。

この街で5年前から起きている謎の事件。

身近な人物が急に血を求めて人を襲うという。まるで吸血鬼になったかのように。

この事件で姉弟達の両親も関係して亡くなったのだ。

「恐らく奥様はまだ亡くなっていません。吸血鬼は銀製の武器や道具を使わないと死にません。今は昼間ですから日光で外に出られないでしょう。動き出すとすれば夜です」

「ではっ、ではどうすれば!」

「私達にお任せ下さい。大丈夫です。全能の神、憐れみ深い父は、御子キリストの死と復活によって世をご自分に立ち返らせ、罪の許しの為に聖霊を注がれました。神が教会の奉仕の務めを通してあなたに許しと平和を与えて下さいますように」

「…アーメン」

「神に立ち返り、罪を許された人は幸せです。ご安心下さい」

「ありがとうございます…どうか、どうか妻をお願いします!」

そう言って男性は場所話し、祈りを捧げ帰っていった。

「…今の話どう思う?」

タバコに火を着けながら二人に問い掛ける。

「十中八九間違いないだろうね」

お菓子を食べながら断言する一都華。

「そうだね〜。薬用意しておかないと」

スマホを(いじ)りながら返事をする三湖都。

本当に私生活といい、お務めといいシスターらしくない「ながらお務め」。

これを健都が見たら怒り爆発だろう。ハリセン片手にお説教。容易に想像ができる。

「じゃあ今夜決行ね。ケントには私からLIMEしておくわ」

「「OK!」」


「ただいま!LIME見たぞ」

「お帰り。話はLIMEで送った通り。吸血鬼事件8件目よ」

「8件目とは…クソッ!まだ黒幕の足を掴めないのか!」

テーブルを強く叩く。

「落ち着けケント」

(なだ)める一都華。

健都が熱くなるのも無理はない。両親の(かたき)だ。

「まず状況を整理しよう」

言いながら地図を広げる二都。

「情報によると家はこの辺り。吸血鬼になった奥さんは倉庫にいるらしい。頭を負傷しているが吸血鬼の体だ、もう回復しているだろう。だが、まだなり始めだから完全ではなく錯乱状態と考えられる。やるなら今夜が良い」

「薬の効き目も今ならバッチリだね〜!」

グッと親指を立てる三湖都。三湖都は吸血鬼の力を無効化する薬を作る事ができる。ただし薬に対する好奇心が強く、以前自分で試そうとした事もあるマッドサイエンティストだ。独特ののんびりとした話し方と見た目からは想像ができない。

「大丈夫だ。私が一撃で倒す!」

一段と気合いの入っている一都華。

「前みたいに暴走するなよ」

「分かってるって」

この通り、それぞれ役割が決まっている。

攻撃型の一都華、情報の二都、後始末の三湖都。そして監督の健都だ。監督は冷静に状況を見極めなければいけない。先ほどのように熱くなっては作戦に響く。今一度心に刻む。

「それでは各々頼むぞ!」

「「「了解!!」」」


深夜一時。

ビルの屋上に4人の人影がー。

一人はロザリオを提げた神父、三人はシスターの格好をしている。普通と違う所は動きやすいように深めのスリットが入っている所だ。

「あそこだな」

狭山姉弟だ。

望遠鏡で場所を確認する健都。

「ああ」

狭山家は代々、悪魔狩りをしている祓魔師(エクソシスト)の家系なのだ。もちろん、両親もそうだった。両親は黒幕まで辿り着く一歩手前だったらしい。二人とも鋭い爪で切り刻まれボロボロになっていた。両親をあんな目に合わせた黒幕を何としても引きずり出したい。その一心で戦ってきた。


男性には危険なので家に鍵を掛けて閉じ籠もるように話してある。

健都は吸血鬼の弱点、銀製の銃弾をリボルバーに詰め込む。もちろん二都のライフルにも同じように銀製の銃弾が詰まっている。残りの二人、一都華は素手・三湖都はメス。

「では始める。天のいと高きところには神に栄光。地には善意の人に平和あれ。

我ら主を褒め、主を讃え、主を拝み、主を崇め、主の大いなる栄光のゆえに感謝し奉る。神なる主、天の王、全能の父なる神よ。主なる御一人子おんひとりご、イエス・キリストよ。世の罪を除きたもう主よ、我らの願いを聞き入れたまえ。父の右に座したもう主よ、我らを憐れみたまえ。主のみ聖なり、主のみ王なり、主のみいと高し、イエス・キリストよ。聖霊と共に、父なる神の栄光のうちに。アーメン」

「「「アーメン」」」

祈りを終えると同時に標的に向かって飛び出す。

予想通り、倉庫から女が出てきた。(よだれ)を垂らしながらフラフラと歩いている。

「あそこにいる!」

建都が叫ぶ。

「任せな!」

一都華が女に(こぶし)を振り下ろす。

ズドーン!!

女が飛び避けた為に地面が割れる。一都華は怪力なのだ。すごい音だが詠唱の力のおかげで防音壁ができているので周りには聞こえていない。

「チッ!動きが思ってたより素早いぞ」

「アタシが行く!」

ズドドド…!!

ライフルで連射する二都。逃げ回る女。でも逃さない。銃の扱いは上手い方だ。

『ゔぁぁぁぁっ!』

何発か命中したようだ。

「殺さない程度にね〜!」

そこに三湖都がメスを投げる。女の顔を少し(かす)めた。

「ありゃ!?」

「まだまだぁっ!」

再度、拳を打ち込む一都華。

『ああっ!!』

今度はヒットした。しかし倒れたと思ったががまた起き上がる。

『血が…血が欲しい』

「我らが主よ、あなたが我に与えし尊き御力をもって彼の者の罪を許したもう。…アーメン」

バンッ!

ここで建都がリボルバーで撃つ。

『ゔっ!』

肩に命中する。動きが悪くなった。ここだ!

「行け、一都華!」

「はいよっ!」

女の顔を殴る一都華。

ドスッ!!

『ガアッ!!』

数メートル先までふっ飛ばされて倒れる女。力一杯殴ったので今度は起き上がれずピクピクとしている。

「三湖都!」

「はいは〜い」

三都は女に近付くと注射器を取り出し、腕に注射をする。これは吸血鬼になった人から抽出した血を利用して作った人間の体に戻す特効薬だ。これで無効化できる。

少しずつ顔色が良くなってきているようだ。

「良かった」

安心する健都。

だがそれも束の間だった。

「お前…よくも私のエサを…」

「誰だ!?」

リボルバーを声がした方向にむける。

暗闇から現れたのは白い肌に黒い髪、赤い瞳を持つ話に聞いている吸血鬼本体だった。しかしよく見ると誰かに似ている。

「まさか。ば、ん…?」

「私はヴァン・キルシュタイン。そうだな、仮の名は千井家万だったな」

「…ヴァン・キルシュタイン?嘘だろ、万」

でも納得がいく。

吸血鬼特有の白い肌に赤い瞳。そして日光に弱い。思い出せばいつも登下校は日傘を差していた。どれも条件に当てはまる。

「でも、何で吸血鬼がミッションスクールに!?」

「ははっ!お前達を欺く為・見張る為だよ。まさか吸血鬼がミッションスクールに通うと思わないだろう?面白かったか?お友達ごっこは。私は苦痛で仕方がなかったがな!もう我慢が限界だったんだよ。血が欲しくて欲しくて堪らない」

「嘘、だろ…」

あんなに仲が良かったのに。友達だと思っていたのに。何故!?神よ、あなたはまだ私に試練を与えるというのですか?

だが吸血鬼である以上、倒さなければいけない。カタカタとふるえる手でリボルバーを向ける。

「撃つのか?健都」

悲しそうな表情を作る万ことヴァン。

「万の顔をするなぁっ!」

パァンッ!


音は銃声ではなく一都華が健都の頬を叩いた音だった。

「しっかりしろ、ケント。今、お前の目の前にいるのは友達の万君じゃない、吸血鬼のヴァン・キルシュタインだ」

そうだ。もう万じゃない。分かってはいるが。

「ああ、そうだ。良い事を教えよう。お前の両親を殺したのは私の父上だ。血は不味くて飲めなかったがな」

ニヤリと笑うヴァン。

「っ!!」

その瞬間、目の前が赤く染まった。

引き金に指を掛ける。

「良いだろう…。父親の前にまずはお前からだっ!!」

バンッ!バンッ!

「どこを狙っている。私はここだ」

二発ともかわされてしまった。

「うるさい!」

バンッ!バンッ!

「許さない…許さない、裏切り者!」

「落ち着け」

二都が健都に向かって言うが聞こえていない。尚も撃つ。

「任せてられない。アタシがやる」

ライフルを構える二都。

「邪魔をするな!父さんと母さんの仇は俺がやるんだ!」もう、暴走状態の健都。ここまで熱くなるのはやはり友達だと思っていた人に裏切られたからか。

「…一都華、頼む」

「ああ」

ゴンッ!!

何と一都華は健都の頭を殴った。

「痛っ。何するんだよ!?一都華」

「言うことも聞かない足手まといはいらない。どけ」

「うるさい!」

「どけと言っているのが聞こえないのか、腰抜け」

「俺は腰抜けじゃない、現にこうしてヤツを退治しようとしているじゃないか!」

「いつもならできるのに今はどうだ?手がふるえて照準も定まらない。まだ心の何処かで迷いがあるのだろう?」

「…」

言われて下を向く健都。

姉達はお見通しだ。

「お前の気持ちは分かる。でもこの吸血鬼を倒さないと犠牲者は増えるばかりだ。父さんや母さんみたいな人が出てもいいのか?」

そうだ。そんな悲劇はもう繰り返したくない。繰り返させない。自分が一番分かっているではないか。

スーッと息を吸って吐き、気持ちを落ち着かせる。

「…主よ、私をあなたの平和の道具にして下さい」

スッとリボルバーをヴァンに向ける、いつも通りの健都。

「お祈りの時間は終わったか?」

「ああ、お前との友達の時間も終わりだ」

「撃てるものなら撃ってみろ」

バンッバンッ!

二発の銃声が響く。

ドサッ。

「万…何で、何で避けない?」

立ち尽くす健都。

「どうしてって、もう、終わらせたかったんだよ…ゴホッ!」

血を吐くヴァン。

そう、ヴァンは逃げなかった。

「万!」

駆け寄ると口からは血が流れ、白い顔がさらに青白くなっている。

「大丈夫か!?今、薬を打ってやる、三湖都!」

薬を催促する健都。だが、頭を振る三湖都。

「心臓を貫かれたんだ。もう助からない」

ライフルを下げる二都。

「良いんだよ…健都。僕は…ゲホッ」

また口から血が溢れる。

「もう喋るな!」

「最期の言葉だ。聞いてやれ」

「…!」

「本当は僕、健都達と一緒にお日様の下で、サッカーがしたかったんだ。ずっと…。父上の言いなりになって生きてきて苦しかった。こんな弱い体で、醜い体が、嫌だったんだ…」

「万は醜くなんかない!きれいだ!」

「…そんな事はない。そう言ってくれるのは健都だけだよ。健都こそきれいだ」

「知ってたか?クラスの女子達から万の連絡先を教えてくれって言われてたんだぞ」

「ははっ。…それなら僕も健都の連絡先をずっと聞かれて、いたよ」

「ほら、同じじゃないか。万もきれいなんだよ!」

「ありがとう、健都…」

笑顔の万。

「お礼なら俺が言う方だ。グスッ…友達になってくれてありがとう…グスッ」

外見で遠巻きにされていた健都にできた一番仲の良い友達。優しい万のおかげで他にも友達ができた。自然と涙が溢れる。

「こんな事をしていた、から、きっと生まれ変われないね…今度こそ人間に…生まれたかった」

「俺が祈るよ!生まれ変われるように…めでたし、聖寵(せいちょう)充ち満てるマリア、主、御身と共にまします。御身は女のうちにて祝せられ、御胎内の御子イエズスも宿せられ給う。

天主の御母聖マリア、罪人なる我らの為に、今も臨終の時も祈り給え。アーメン…」

涙を流しながら祈る。

「あ、りが、とう…」

パタ。

握っていた手から力が抜ける。

「万、万っ!!」

万はサラサラと灰になって健都の手のひらから消えていった。

「主よ、御下に召された人々に、永遠の安らぎを与え、あなたの光の中で憩わせて下さい」

防音壁代わりの結界が健鎮魂の祈りとともに防音壁代わりの結界が解ける。

千井家(ちいけ)ばんことヴァン・キルシュタインは弱冠18歳で生涯の幕を閉じたー。

「ここで終わらせない。万の為にも」

スッと立ち上がる健都。

手をギュッと握る。

「さあ、帰るぞ!」

振り返った健都の顔は笑顔だった。


翌朝。

「天におられる私達の父よ。御名が聖とされますように。御国が来ますように。

御心が天に行われるとおり、地にも行われますように。

私達の日ごとの糧を今日もお与えください。私の罪をお許し下さい。私達も人を許します。

私達を誘惑におちいらせず、悪からお救い下さい。アーメン」

祈りを捧げる健都。

「さて、今日もか…」

隣の家に向かう。

ドアを開け、大声で叫ぶ。

「起きろー!一都華、二都、三湖都!!」

バシバシとハリセンで叩いていく。

「ふあ〜あ…昨日は任務だったんだからもうちょい寝かせろよ」

あくびをして頭を掻く一都華。

「お姉様を付けろと言ってるだろう…」

タバコを探して火を着ける二都。

「一都華にさんせ〜い」

布団の中から手を挙げる三湖都。

「お前達…いい加減にしろー!!」

特大の雷が落ちた。

「全く、今日もサボりとはいい度胸だな。おい」

「だってさあ」

「だっても何もない」

「あまり口うるさいと女のコにモテないぞ」

「モテなくて結構だ」

「好きな女のコいないの〜」

「女に構っている暇はない。お前達だけで充分だ」

「何々、お姉ちゃん達の事が好きなの!?」

「可愛いヤツめ〜」

頭をグリグリする一都華。

「やめろ」

振り払う健都。

「女の世話はお前達でだけ充分だって事だよ!」

「可愛くな〜い」

健都の頬を引っ張る三湖都。

「はへほ(やめろ)」

「ははっ変な顔〜」

指を差して笑う一都華。

「ふふはいっ!(うるさいっ)」

「元気なようで良かった」

ボソッと言う二都。

顔を見合わせる三姉妹。

これでも姉達は健都の事を心配していたのだ。

「俺はこの通り。いつも通りだ」

三湖都の手から逃れた健都が言う。

「なら、良い。行って来い!」

バシンと一都華に背中を叩かれる。

「痛っ…分かってる。お前達こそお務めサボるなよ?」

「分かってますって!」

「任せな」

「そうそう〜」

「本当かよ…じゃあ行ってきます」

不思議と心が晴れている。昨日あんなに涙したというのに。それに寝れなかった。

「おはよう。健都」

後ろから声がする。

「おはよう、万…って(まこと)か」

「何だよ、ガッカリした顔をして」

声を掛けてきたのはクラスメイトの真だった。

「悪い。人違いをした」

「珍しいな。お前がそんな事するなんて」

「うん…」

いつもの癖でつい返事をしてしまった。

そして、教室に着くと万の席に誰かいる。

こちらに気付いたようで振り向く。

「おはよう。健都」

「お前…」

「やあ、僕は今日から留学生として来たヴィル・キラインだ。改めて宜しくね」

笑顔のヴィル。

色は違えど万の笑顔だ。

「万…?本当に生まれ変わったのか!?」

「転生したみたいだね。僕もビックリだよ。気付いたら人間に転生してるんだもん。地獄の悪魔にも嫌われたのかな?なんてね。今度こそ人間として健都と一緒にいれる。こんな嬉しい事はないね。神様に感謝しないと」

「万…いや、ヴィル!こちらこそ宜しくな」

二人はがっちりと握手を交わした。


同時刻、狭山サンタ・マリア教会。

「主の御前で罪を告白しなさい。恐れることはありません。神の愛は無限です」

今日も迷える人々を導くお仕事をしている。

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