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【パンダ】甘えた末に、笑われて

罪状:甘え癖・社会的自立拒否

働く気も責任も持たなかったマサトは、“癒し要員のパンダ”として酷使される。

誰かに頼られる日々の中で、はじめて「甘える側」から「支える側」になる喜びを知る。

刑の終了後も自ら脱がず、その姿で生きる選択をする。

第一章 ──「がんばれない」


マサト・セキネ、24歳。

バイトは長続きせず、努力する気もなく、何かと言えば「無理」「だるい」で済ませてきた。


「別に死ぬわけじゃないし、働きたくないなら働かなくていいでしょ」

「俺みたいなやつは、世間が甘やかしてくれりゃいいんだよ」


生活は親の援助と、SNSでの“かまって投稿”に頼っていた。

フォロワーからの「大丈夫?」「ムリしないで」が彼の栄養源。


だがある日、その“構って”が過剰になりすぎた。

通報。迷惑行為。働かないことを自慢する配信。


そしてついに──


「被告人、セキネ・マサト。社会的自立拒否および過剰依存行動の常習化により、“パンダの着ぐるみを着せられる刑”を執行します」


「パンダ……って、癒されればいいってこと? それ、むしろ最高じゃん」


だが、彼はまだ知らなかった。

“癒しキャラとして生きる”ことが、どれほど過酷かを。



第二章 ── 着ぐるみの中の労働


パンダの着ぐるみは、重かった。

もこもこで、暑くて、視界は狭く、呼吸すらしづらい。


配属先は──地域の保育園と老人施設の慰問スケジュール。週6日。拘束時間10時間。


「笑ってー!」「手を振ってー!」「踊ってー!」


できなければ、「元気ないね」と言われ、

立ち止まれば、「やる気ないの?」と声が飛ぶ。


「癒しキャラなんだから、ニコニコしてて当たり前でしょ?」


──皮肉だった。

甘える側だった彼が、今度は「甘えられる側」として働かされていた。



第三章 ── 働きたくないのに


はじめは、ふてくされながらも言われた通りに動いていた。


でも、疲労は溜まっていく。

何も言えない。断れない。代わりはいない。笑顔をやめられない。


「……俺、なんで……パンダなんかに……」


ふと、鏡の前で立ち止まった。

パンダの頭を脱ごうとするが──脱げない。肌に密着していた。


「嘘だろ……?」


それでも次の現場に連れて行かれた。

子どもたちが駆け寄り、年配の利用者がそっと手を握る。


「ありがとうね、元気もらえるわ」

「今日も来てくれてうれしいよ」


その言葉に、なぜか涙が滲んだ。

自分が初めて「誰かの役に立った」瞬間だった。



第四章 ── パンダのまま眠る


ある夜、スケジュールの合間に彼はひとり園庭に座り込んだ。

月明かりに照らされるパンダの姿。


彼の心は、不思議と穏やかだった。


「俺……前より疲れてるのに、前よりちゃんと、生きてる気がするな」


そう呟いたとき、彼の着ぐるみにふわりと解放信号が届いた。


──もう脱げる。刑は終わった。


でも、マサトは脱がなかった。


そのままパンダの姿で、ベンチに横になり、目を閉じた。



最終章 ── 甘えずに、笑う


今、パンダは公園にいる。


いつも同じ場所に座って、子どもと話し、花を見て、訪れた人に手を振る。


「ほんと不思議ね、このパンダさん、誰が入ってるのか誰も知らないのよ」

「でも、すごく優しい目をしてるよね」


誰もその中に、かつて社会を甘く見ていた青年がいたとは思わない。


でも彼は今──

誰かを癒す存在として、確かにこの世界に“必要とされて”いる。

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