【スズメ】誰にも届かなかった声
第一章 ── 小さな声の中で
ナナ・カミシロ、15歳。
いつも何かを言いかけて、やめていた。
教室でも家庭でも、声は小さく、人の言葉にかき消される。
「どうせ、誰も聞いてないし……」
「間違ったら恥ずかしいから……」
「うまく言えないなら、黙ってたほうがマシ」
──沈黙は、彼女の盾だった。
だが、声を出さなかったことで、助けられなかった友人がいた。
「被告人:カミシロ・ナナ。対人回避および意思伝達の極端な放棄が、
間接的な社会的損害を生じさせたため、“スズメの着ぐるみを着せられる刑”を執行する」
⸻
第二章 ── 小さく、軽く、届かない
スズメの着ぐるみは、小さくてふわふわした茶色の鳥型。
体も口も軽く、鳴き声は「チュン」としか出せない。
歩くと音がしない。飛ぶこともできない。
存在そのものが“かき消される”ような着ぐるみだった。
人の会話の中で挟まっても気づかれない。
手を挙げても見られない。誰も、彼女を“話者”として扱わない。
──それは、彼女が「望んでいた世界」そのものだった。
でも、もうそれでは苦しいと、心がうすうす気づきはじめていた。
⸻
第三章 ── 聞いてくれた手
ある日、彼女の近くに静かに座った少年がいた。
彼もまた、ほとんど喋らなかった。
でも、スズメの彼女が「チュン」と鳴いたとき、ふと手を差し出してくれた。
「……チュンって、ナナの声?」
頷いた。
「……ちゃんと聞いてるよ」
その一言に、ナナの中の何かが崩れそうになった。
誰かが、自分の“声”としてその鳴き声を受け取ってくれた。
それは、生まれて初めての感覚だった。
⸻
第四章 ── 羽ばたくことの意味
ナナは少しずつ、周囲に「チュン」と鳴いてみるようになった。
最初は誰にも届かなかった。
でも、何度も続けるうちに、顔を向けてくれる人が増えた。
「スズメちゃん、なにか言いたいのかな?」
「今日も元気だね、かわいい声」
それでも、言葉にはならなかった。
それでも──聞こうとしてくれる人がいるという事実が、彼女の心を支えた。
やがて彼女のスズメ姿は、施設の中で「小さな声と向き合う存在」として親しまれていった。
⸻
最終章 ── チュンの奥にある言葉
刑期が終わり、スズメの着ぐるみが脱げるようになった日。
ナナは静かにチャックを開け、自分の声を使ってこう言った。
「……ありがとう」
たったひとことだった。
でも、その声はよく通っていた。
今、ナナは読み聞かせボランティアとして活動している。
小さな子たちの小さな声に、しっかり耳を傾けている。
かつての自分のような子の「チュン」を、聞き逃さないために。




