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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アリア・アルテイラの手記

ルノワール・アルテイラの呪い

作者: 桜花

俺の父親は愚かな王だった。

領土欲しさに魔法士が多く生まれる隣国に戦争を仕掛けるほどに。

昔から俺はこの父親が嫌いだった。

父親は大嫌いだったが、母親のことは愛していた。

優しく、聡明で愛に溢れた母だった。

「ルノワール、またこんなに傷を作って。」

「母さま!」

「鍛錬もいいですが、あまり無茶をしてはいけませんよ。」

「いえ、これも王太子の務めです!」

「貴方のその責任感の強さは素晴らしいですが、母は少し心配です。」

母は少し困ったような笑顔で、俺の頭を撫でた。

俺は母の手が大好きだった。

母の手は温かく、慈愛に満ちていた。

そんな母を守りたい。

そう思って辛い鍛錬も耐えた。


しかし、俺が10歳の時に母は死んだ。

後から知ったが、母は病にずっと侵されていたらしい。

母を失った俺は鍛錬をさらに続けた。

母が亡くなったことを少しの時間でも忘れていたかったのだ。

「はぁ‥はぁ‥‥。」

母はもういない。

あの優しい手にはもう二度と触れられないのだ。

俺は毎日声を押し殺して泣いた。


妻を失ったというのに父は毎晩側室の女と夜を過ごしていた。

俺にはどんどん弟や妹が増えていった。

そんな父が汚く肥えた豚にしか見えなかった。

15になった頃また妹が生まれた。

その妹は魔力を多く宿していると聞いた。

俺はそんな話を聞いてもどうでもよく、会いに行こうなど思わなかった。

その妹が生まれた時は戦争でこちらが劣勢の頃だった。

俺は一つの隊を与えられ、戦っていた。

敵国での戦いは辛く、苦しいものだった。

だが、母を失ったときの苦しみには勝てない。

俺は次々に敵を殺し、やがてアルテイラ王国の英雄と自国では称えられた。


数年が経ち、自国に戻った際に父に呼び出され、行くとそこには末の妹がいた。

「ルノワール、アリアをお前に預ける。戦争の役に立つだろう。」

この幼い妹は隣国の魔法士が束になっても勝てないのだろう。

それほどまでに魔力が多く、脅威になり得る存在なのだ。

だが、こんなに幼い娘を戦争の兵器にしようというのか。

自分は安全な王宮にいて身の保証がされているというのに。

どこまでも腐った王だ。

「‥‥承知しました。」

そんな王に従うしかない俺も腐っている。


「お初にお目にかかります。ルノワールお兄様。」

「‥‥あぁ。お前の名前はアリアだったか?」

「はい、アリア・アルテイラ。貴方様の末の妹です。」

幼いくせに可愛げがない、それがアリアの第一印象だった。

アリアの目には何も映っていない。

虚無だった。

「お前の母親はどの側室だ?」

「‥‥分かりません。というか、もうこの世にはいないと聞きました。私を生んだ時に私の魔力が強すぎて体が耐え切れず命を落としたようです。」

「そうか‥‥。」

この末の妹も母親がいないのか。

こいつは母親の愛情を知らない。

もちろん、あの父親が愛情など与えているとは思えないから、生まれてからこの方愛されたことが無いのだろう。

「?ルノワールお兄様、なぜ私の頭を撫でるのですか?」

「別に。兄が妹を撫でるのに理由がいるか?」

俺は母がいないという同じ境遇のアリアに同情したのかもしれない。

気づけば俺はアリアの頭を撫でていた。


母が俺にしてくれたように。


アリアの加入により、戦況は変わってきた。

邪魔な魔法士達はアリアの魔法で次々と死んでいった。

隣国の兵士たちもどんどん疲弊していった。

アリアはただ無感情に人を殺した。

俺が殺させていた。

ダメな兄ですまない。

いつか戦争が終わったら、もうお前を兵器にはしない。

他の兄弟たちと沢山遊べばいい。

だから今だけは、一緒に耐えよう。


俺の人生はこの日狂った。

この日、俺は隣国の市街地で戦っていた。

「へぇ、やっぱ強いね。王太子サマ♡」

俺と戦っていたのは女兵士だった。

俺の剣を軽く受け流し、飄々としていた。

「ねぇ、あんた何のために戦ってるの?」

「‥‥戦争に意味があるか。だが、この戦争に負けたら妹は幸せを知らないまま人生を送ることになる。」

「へぇ、妹がそんなに大事なんだっ!!」

「っ!!」

女は俺の肩を剣で貫いた。

「私ね、魔法は使えないんだけど『呪い』は使えるんだぁ。」

そういうと俺の頬に手を触れ目を合わせた。

「私はこの国に魔法を与えた魔女の末裔。原始の魔女の呪いを受けるがいい。」


『お前の一番大事なものに歪んだ感情を抱け。執着し、歪んだ愛情を押し付け、壊せ。』


女がそう言うと俺は意識を手放した。


次に目を覚ましたのは自国の自分の部屋だった。

「ルノワールお兄様。アリアです、入室してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、アリアか。入れ。」

そう言うとアリアは俺の部屋に入ってきた。

その姿を見た時に俺の世界は歪んだ。

「ルノワールお兄様。ご気分はいかがでしょうか?」

「‥‥あぁ、問題ない。」

「しかし、顔色が‥‥。」

「少し、一人にしてくれないか?」

おかしい。

「かしこまりました。」

そう言ってアリアは部屋から出ていった。

おかしい。

アリアを見ると胸の鼓動が早くなる。

顔が紅潮する。


まるで、アリアに欲情しているように。


「はは、相手は妹、だぞ?そんな馬鹿なことが‥‥。」

『お前の一番大事なものに歪んだ感情を抱け。執着し、歪んだ愛情を押し付け、壊せ。』

あの女が言った言葉が頭をよぎる。

これが、あの女の呪いだと言うのか。

ふざけるな。

「あいつは、俺の末の妹で、戦争が終わったら幸せになってほしくて‥‥。」

ふざけるな。

「俺と同じ母親がいない妹で、同じ境遇で、だから、だから‥‥。」

正気と狂気が頭を廻る。

『兵器として育てられた分、戦争が終わったら幸せになってほしい。』

『俺だけのものにしたい。』

『他の兄弟たちと打ち解けて笑ってほしい。』

『俺だけを見てほしい。』

妹への愛情が女への欲情に塗り替えられていく。

「これでは、あの父親と同じじゃないか‥‥。」

俺はあいつの兄じゃない。


アリアは俺の、俺だけのものだ。




「アリア、今夜部屋に来なさい。」

俺は呪いに屈した。

時折でる正気はさらに俺を狂わせた。

アリアはすべて受け入れた。

あぁ、やっぱりアリアも俺を愛しているんだ。

お前を誰にも渡さないよ。

美しい黒髪もガーネットのような赤い瞳も、白く柔らかい体も全て俺の物だ。

そう思っていたのに。


「もう、行けません。」

アリアに初めて拒絶された。

その眼には俺が映っていない。

お前は誰を想っている。

怒りが沸々と沸き上がり、アリアを部屋に無理やり引き連れ欲望のままに犯した。

アリアは泣きながら抵抗したが関係ない。

お前だけなんだ。

お前以外いらないんだ。

「愛している、アリア。」



アリアの心を奪った男、ローラン・ヴェルア。

従者に調べさせたらすぐに分かった。

ヴェルア帝国の皇太子。

大方、アリアを使ってこの国を滅ぼそうとしているのだろう。

別にこの国を滅ぼそうとどうでもいい。

アリアの心を奪った、それだけで重罪だ。

ローランの従者と接触し、ローランの情報をよこせばアルテイラ王国での生活を保障するという条件を提示したら、あっさりと情報をよこした。

俺はローランを捕らえる為に兵士たちを引き連れ向かった。

ローランは抵抗することもなく捕まった。

捕らえても、拷問しても抵抗することもなかった。

しかし、心を折ることもできなかった。

俺はアリアとの情事を記録している水晶をローランに見せつけた。

ローランはそれを見てひどく動揺したが、心を折ることはできなかった。



『アリアとローランが愛し合えば、きっとアリアは幸せになれる。』

「煩い‥‥。」

『ローランはアリアのことを愛しているし、任せられる。』

「黙れ‥‥。」

正気が呪いを押さえようとしている。

しかし、呪いは強く正気を塗りつぶす。

いつからか、正気が煩わしくなっていった。

どれが本当でどれが偽りだ。

分からない。

「もう、どうでもいい‥‥ローランを処刑しよう。」

呪いは正気を消させた。





我が国の国民。

王族の人間。

そして俺の横には跪かされているローラン。

俺の手には処刑用の剣が握られている。

ローランの罪状を読み上げる。

アリアにはローランの真実と死を叩きつける。

俺は罪状を読み終わると剣を掲げ、ローランの首を落とした。

国民は俺を称える。


多くの歓声はすぐに止んだ。

アリアの手錠が外れ、近くにいる人間たちを殺し始めた。




アリア、俺は弱い人間だった。

呪いに屈し、お前に苦しみを与えてきた。

そんな兄を恨んでいるだろう。

そして今日、お前の愛する人間を殺した。

俺はお前に殺され、贖罪しよう。


最期に正気に戻るなんてな。



「アリア‥‥愛している。」

妹として。




読んでいただきありがとうございます。

誰かに読んでもらえるというのはとても嬉しいです。


さて、ここからは平和な世界戦であった場合のキャラの妄想でも書き留めておこうかなと思います。

恐らくアリアは平和な世界線では他の兄弟に可愛がられるかもしれません。

なんせ末っ子ですからね。

ちなみに、アリアの言う化け物扱いされていたというのはアリアの勘違いです。

他の兄弟たちはアリアと関わったことがなかったので、どう接すればいいのか分からなかったんだと思います。

というか、化け物扱いしていたのは父親です。

兵器としては優秀だが、自分の子だと思うと気持ち悪い、そんなことを思っていたと思います。

くそ親父め。

次にローランは隣国の王女様に片思いする普通の男の子になっていたと思います。

ただ、元の性格の軽薄さからかアリアと打ち解けるには時間がかかるでしょうね。

でもアリアへの想いは本気でしょうから、ドストレートな愛情表現に折れそうですね。

そしてルノワールは多分超シスコン(健全)です。断言できます。

可愛い末っ子にどこぞの馬の骨が近寄ろうものなら威嚇するでしょう。

そして、過保護な兄に対して「うざい。」の一言で沈めるのが末っ子です。

平和な世界線では多分ルノワールが一番ギャグ要因にしやすいです。

いつか平和な世界線のパロディみたいな番外編書きたいなぁ。


長々と妄想を垂れ流してしまい申し訳ありません。

改めて、この作品を読んでいただきありがとうございました。

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