表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/93

エピローグ-06

夜もすっかり更けた頃、満月(みつき)の夜泣きで目を覚ました。いつも通りお乳をあげると、すぐにすやすやと眠る。今夜は天気がいいのか、月明かりが障子を通して青く差し込む。


「喜与」


障子の向こうから私を呼ぶ声がする。

低く透き通った、優しい声。


「月読様」


返事をするとすっと障子が開き、繊細で美しいシルエットが浮かび上がった。


「今夜は満月(まんげつ)だ。少し、夜空を眺めないか?」


「はい、ぜひ」


満月(みつき)がぐっすり眠っていることを確認して、そっと部屋を抜け出した。外に出ると風はないけれど、冬の冷たい空気がピリピリと肌を刺す。


「それでは寒いだろう」


月読様が自分の羽織を脱いで、私の肩に掛けてくれた。そしてそのまま私を抱き上げるとふわっと空へ舞う。


「月読様、羽織がなくて寒くないですか?」


「私は大丈夫だ」


いつも、月読様と空を眺めるときは鳥居の上だ。けれど今日はまだ恵方詣の参拝客が深夜にも関わらずちらほらとやってくるため、月読様は本殿の屋根の上に着地する。ここだと拝殿に隠れるため、参拝客から私の姿が見えることはないだろう。


「結局バチあたりですよね」


「いいのだ、私の住処なのだから」


月読様は空に手を伸ばす。いくつかの星が光を放出しながら、幻想的に夜空を彩った。空にはまん丸の月がぽっかりと浮かぶ。その綺麗な風景にしばし見とれた。夜空なんて毎日同じようなものなのに、月読様と眺める夜空は特別に美しく感じる。


「御節料理、とても美味しかった。あんなにたくさんのものを作るのは大変だったであろう?」


「月読様に喜んでもらいたくて、頑張っちゃいました。それに、斉賀家の皆さんにも。いつもお世話になっているから、そのお礼として」


「それにしても斉賀家は賑やかだな」


「はい、本当に。月読様の存在を感じてもらえて嬉しかったです。でも……」


言いかけて、口をつぐむ。月読様に視線を向けると、「どうした?」と柔らかい眼差しが返ってくる。その温かさに胸がきゅんと苦しくなって、月読様の腕を絡め取るようにぎゅうっと抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ