エピローグ-04
「箸が浮いてる……」
「豆が消えた……」
旦那様と奥様が月読様を見てぽかんとする。どうやら月読様の姿は見えないけれど、月読様がお箸を使い黒豆を食べるので、箸が宙に浮いているように見えるみたいだ。
「あ、えっと、月読様が食べてくださってるので……」
「ええ、それはわかっているけど」
「何か不思議な感覚だ。見えないはずなのに見えるみたいだよ」
「ありがたいのう」
「長生きしててよかったわい」
「月読様、なますも美味しいよ。食べてみて」
「これ、永真。言葉遣い!」
「あっ。なますも美味しいので、食べてみてください」
皆が、月読様と呼びかける。それに応えるように、月読様の取り皿にはたくさんの種類の御節料理が盛られていく。
「喜与」
「はい、何でしょう」
「私は今まで食べるということに何も感じていなかったが、なかなか良いものだな。料理を振る舞ってくれてありがとう」
「喜んでもらえたなら、嬉しいです」
「ああ、とても。皆と食事ができて嬉しく思う」
月読様は嬉しそうに、次々と食べてくれる。私が作った料理を月読様が食べている。こんな日が来るなんて思っても見なかった。まるで夢を見ているみたいだ。
「また、作ってもいいですか?」
「また作ってくれるのか?」
「もちろんです! また月読様に喜んでもらいたいです」
「ふふっ、お主は本当に可愛いな」
「えっ!」
とたんにボボッと頬に熱が集まる。突然そんなことを言うものだから、急に心臓がドッドッと音を立て始めてしまう。
「喜与さん、どうしたの? 月読様なにか仰ってる?」
「え? いや、えっと……」
「喜与のことが愛しくてたまらぬよ」
月読様の声が私以外に聞こえないことをいいことに、そんなことを言い出す。ちょっぴり意地悪な顔をしているのは、私をからかっている証拠だ。