エピローグ-03
居間に戻ると月読様のために上座が空いており、私もその隣に座らされた。私なんかが上座に座るだなんて恐れ多いと慌てるけれど、奥様に手で制される。
「あ、あの、ここは上座なので……」
「いいのいいの。月読様の隣に喜与さんがいないと、私たち月読様を感じられないでしょう」
「月読様いるの?」
「どこどこ?」
「永真、真太、神様に向かって失礼でしょう。きちんとご挨拶しなさい」
叱られた二人はすぐに姿勢を正し、きちんと手をついて頭を下げる。
「神様、あけましておめでとうございます」
兄の永真がご挨拶するのを真似て、真太も「おめでとうございます」と頭を下げる。月読様は二人のそばに行って、そっと頭を撫でた。
「今、月読様があなたたちの頭を撫でてくれていますよ」
伝えると、永真と真太は「わあっ」と顔を見合わせて嬉しそうに笑った。そんな幸せな光景に胸が熱くなる。神様が見えなくても、神様の存在を信じている人がいる。それも、疑うことなく。
ずっと気持ち悪いと疎まれてきたことが嘘みたいな世界が、斉賀家に広がっている。なんて素敵な世界なんだろう。
「それではいただこうかの」
お祖父様とお祖母様が箸をつけてから、永真と真太が「いただきまーす」と我先におかずを取り合う。それを両親に叱られながら、賑やかな夕食が始まった。
「月読様、どれを取りましょうか」
「たくさんあって迷ってしまうな。適当にいただこう」
月読様が箸を持ち、黒豆を一粒ぱくりと口に入れる。もぐもぐと咀嚼するのをじっと見守ってしまった。どうだろうか、甘すぎないだろうか。それとも甘さが足りないだろうか。
「喜与」
「はい」
「美味い。こんなに美味いものは初めて食べた」
「本当ですか? いっぱい食べてください」
褒められたことが嬉しくて、あれもこれも月読様のお皿にのせる。斉賀家の皆さんにもよく「喜与さんは料理上手ね」と褒められるけれど、なんだか今日はそれ以上に嬉しい気持ちでいっぱいになる。
好きな人に食べてもらえるって、こんなに嬉しいことだったんだ。




