15.泡沫の愛を誓う-07
顎をくっと持ち上げられ、強制的に月読様の方を向かされる。月夜に照らされた月読様はとても幻想的で、息を飲むほど美しい。星空のような瞳に吸い込まれそうになる。
「私が愛しているのは喜与だけだ。これまでも、これからも、お主だけしか愛さぬ」
「……!」
「信じておらぬのか?」
「だって、神様はとても長生きなのでしょう? 私と過ごす時間など、ほんの少しではないですか」
「そうだな。喜与との時間は神にとっては泡沫やもしれぬ。だが私は泡沫などにするつもりはない。愛おしさを教えてくれたのはお主だろう。一生大切にしたいのだ」
優しげな眼差しがふんわりと、そしてしっかりと私を包み込んだ。愛おしさが溢れて胸が張り裂けそうになる。ぼやけでゆく視界を月読様の胸に押しつけた。ふわりと鼻をかすめる白檀の香りは、大好きな月読様の香り。優しく抱きしめてくれる温もりに、体を預ける。
「……満月のことも愛してください」
「喜与は我儘だ」
「月読様にしか我儘は言いません」
「それでよい。満月のことも愛しているが、何があろうとも一番は喜与だということを覚えておいてくれ」
「はい。……嬉しいです」
月読様がしなやかに右手を伸ばすと藍色の空に星が流れた。こぼれ落ちそうなくらいに瞬く星たちは、まるで私たちに祝福の光をくれるように、キラキラと眩く揺れる。そんな幻想的な光景を、月読様と二人、鳥居の上に座って眺める。なんて贅沢な時間なのだろう。
月読様の伸ばした右手に、どこかから飛んできたカラスが一羽しなやかに止まる。艶々とした毛並みのカラスは「月読様」と声を発した。
「カラスがしゃべった?!」
「ほう、我の声が聞こえるのか。やはりうさぎの言っていたことは本当だったのだな」
「うさぎって、出雲のうさぎですか?」
「喜与、この者は八咫烏だ。重要な言伝があるときに飛んでくる」
「重要な言伝?」
きょとんと首を傾げる私とは対照的に、月読様は顔を険しくする。そしておもむろに私の手を握った。