15.泡沫の愛を誓う-03
「私は月読様にいつもよくしていただいているのです。だから月読様に何かお礼がしたいのですが、どうしたらいいかわかりません」
「お礼ねぇ」
奥様はうーんと唸ってから、手をぽんっと叩いた。
「そうだわ、喜与さん料理得意だし、月読様に好きな食物を聞いて作ってあげたらどうかしら?」
「なるほど……」
じゃあやっぱり今夜月読様に聞いてみよう。普段食事はどうされているのか、何が好きなのか。それで一生懸命作って、食べてもらおう。喜んでもらえるといいのだけど。
などと考えていると、奥様がぷはっと吹き出す。
「?」
「あはは! もう、喜与さんったら可愛いわね。すごく健気で可愛い。そりゃ月読様もお気に召すわ」
「や、そんなんじゃ……」
決してそんなんじゃないのだけど、そんな風に言われるとなおさら恥ずかしくなる。きっと今、顔が真っ赤だ。頬が熱くてたまらないもの。
「みっちゃん泣いてるよー」
永真が呼びに来てくれ、はっと我に返る。「ちょっと見てきます」と断りを入れて、その場を抜け出した。
妙にドキドキしているこの気持ちをごまかすように、満月を抱き上げる。ふえふえと泣く満月は、生まれたころよりも声が大きくなった。生まれたときにはなかった睫毛も生えてきて、少しずつ成長しているのだなと実感する。
「満月、母が来ましたよ」
「みっちゃんお腹すいてるかも」
「おしめじゃないかな?」
永真と真太がそわそわとしながら満月をのぞき込む。お世話する気満々な二人は、ああでもないこうでもないと騒ぎ立てながら私の周りをくるくると回る。
「どっちもかもしれないね。さあさあ、お乳をあげるから、あなたたちはもう一度母様のお手伝いをお願いできるかしら?」
「はーい」
「みっちゃんまた後でねー」
満月にお乳をあげてからおしめを取り換える。満月のお世話も、だんだん慣れてきた。これも、奥様から教わったこと。本当に私は斉賀家にお世話になりっぱなしだ。そうか、月読様だけじゃなくて、斉賀家にも何かお礼をしたいのだけど……。
「ふふっ、月読様に似てる」
「何が似ている?」
「あっ、月読様!」
いつの間に来ていたのか、月読様が音もなく隣に座る。
外はもう随分と日が落ち、夕闇が支配していた。