2.色づく世界-03
夜もどっぷり暮れた頃、旦那様の寝所へ向かう足取りは重い。今日も、ただ淡々と行為が行われる。正直苦痛以外の何物でもないが、子を身ごもるためには仕方がない。
「喜与でございます」
「うむ、入れ」
薄明かりの中、旦那様が座っている。その横には布団が敷かれている。結婚してから、子を作るときだけ入ることを許された部屋と布団。
そこに、愛などあるはずもなく、旦那様はなぜ私と結婚したのか、未だによくわからない。旦那様の年齢は、私より一回り年上だ。所詮家同士の結婚だったのだ。そこに私たちの意思はない。
わかっているけれど、少し寂しい気持ちになるのは私のわがままなのだろうか。
「お前、なぜ子ができない?」
「わかりません」
「跡取りが生まれなかったらどう責任を取るつもりだ? 俺はとんだ出来損ないを掴まされたもんだな」
「……申し訳ございません」
「さっさと脱げ」
「……はい」
そうして、旦那様は私を鬱憤の捌け口として扱う。乱暴に犯されたあと、私は用済みとばかりに部屋を追い出され、旦那様はすぐにいびきをかいて寝るのだ。
体が気怠い。重い体を引きずりながら、井戸水で身を清める。今日が寒くなくてよかった。
井戸の近くに萎れたキキョウの束が見えた。
そういえば名月神社に行きたいんだった。
私はキキョウを胸に抱える。
昨夜同様、こっそりと屋敷を抜け出した。
今夜も月が綺麗だ。
名月神社の石段を登っていくと、鳥居の上に人影が見える。
「月読様……」
また、空を見上げているのだろうか。鳥居の上だなんて、本当にバチ当たりな神様だ。