15.泡沫の愛を誓う-01
斉賀家で暮らし始めて二カ月程が経った。産後の体もだいぶ回復し、ここでの生活にも慣れてきた。朝は名月神社の掃除から始まり、奥様と一緒に料理をしたり満月の世話をしながら子どもたちと遊んだり、充実した日々を送っている。
そして今は年の瀬も迫る師走。斉賀家は大忙しだった。なんでも、来年は名月神社が良い方角らしく、恵方詣で賑わうだろうと予想されたからだ。
私は邪魔にならないよう、斉賀家の台所で御節料理であるなますや煮物をせっせと作っていた。料理はもうずいぶんと昔からやらされてきた。実家でも伴藤家でも、私がやるのが当たり前だった。けれど斉賀家に来てからは、率先して料理を担当している。なんと言っても、食べてくれる人が「美味しい」と笑ってくれるからだ。
「おなかすいたー」
いい匂いにつられて、子どもたちがやってくる。兄の永真と弟の真太だ。どうにかしてつまみ食いできないかと、目をキラキラさせて期待の眼差しで私を見てくる。そんな子どもたちがとても微笑ましい。
「じゃあ、少しだけね」
まだしっかり浸かっていないなますを、ほんの少しだけ手に乗せてやる。パクリと食べた子どもたちは、「うんまー」と大げさに騒ぎ、嬉しそうに飛び跳ねた。
「あなたたち、向こうのお手伝いは終わったの?」
「うん。母様が、みっちゃんのお世話してこいって」
「みっちゃんと遊んであげる」
二人は満月のことをみっちゃんと呼ぶ。まだ寝ているだけの満月に、お話をしてくれたり頭を撫でてくれたり、すっかりお兄さんらしくなった。
「じゃあお任せしてもいいかしら? 泣いたら教えてね」
「はーい」
二人に満月をお願いして、私は御節料理をせっせと作る。そろそろ夕飯の準備もしておこうか。
昼間は月読様はあまり姿を現さない。夜の神様だからだろうか。そういえば、月読様の食事を作ったことがない。どうしているのだろう。
そう考えると、私は月読様のことをあまり良く知らない。大好きで愛おしい存在に変わりはないけれど、それは少し寂しい気がする。知ろうとするのはよくない感情だろうか。
伴藤家に嫁いだときは理由も何も知らされず、有無を言わさず生活が始まった。物事について深く知ることを許されなかった。それが当たり前の世界で、知りたいと考えることすらなかったというのに。




