14.御祭神-01
斉賀家の皆さんが居間に集まる。私は満月を抱えて、深々と頭を下げた。
「この度は助けてくださって本当にありがとうございました。体も回復しましたし、おいとまさせていただこうかと思います」
「おいとまって、どこに行くつもりなんだい?」
「ご実家に帰るの? 申し訳ないけれど、喜与さんのことを調べさせてもらったの。この坂を下った伴藤家のお嫁さんだったそうね」
旦那様と奥様が神妙な表情を浮かべた。うさぎが言っていた通り、私の素性は知られていたようだ。
それもそのはず、伴藤のお義母様はあの日私と同じように、大火傷を負ったらしい。私が投げつけた鍋が顔に当たったのだ。嫁に殺されかけたと近所では噂になっていたと、うさぎが教えてくれた。殺されかけたのは私と満月だけれど、そんな真実を伴藤家が言うわけがない。すべて私に罪をなすりつけ、被害者面をしているのだと言うことだった。
「そんなわけで、斉賀家は今、喜与さんを匿っている状態なんだ。俺たちは真実を知りたいと思っている。そのことについて、君を追い出すだとか、お役所に突き出すだとか、そんなことは考えていない。だから話してくれないかな」
「……」
何をどう話していいのか、躊躇われる。斉賀家は皆優しくていい人ばかり。それをわかっているからこそ、余計な心配をかけたくないと思う。
「お前さんは斉賀家に助けられた。だったらわしらはお前さんの事情を聞く権利があると思わんかね?」
「なにも取って食おうなんて思ってはおらんよ。お前さんも伴藤も大火傷を負った。だけどお前さんだけが奇跡のような回復をしている。あちらさんは、肌がただれて今もまだ酷い状態だそうだ。ここ数週間、不思議なことが起きすぎた。聞きたいねぇ、何があったのか」
お祖父様とお祖母様が興味津々な眼差しで見てくる。言うしかないのだろうか。けれど口が重い。話すのが、怖い。