13.あなたに伝えたいことは-03
「出ていかずともよいではないか」
「斉賀家にはこれ以上迷惑はかけられませんよ」
「私と住めばよい」
「え?」
「満月は私たちの子であろう。では私たちは夫婦になるべきではないか」
「月読様と私が……夫婦?」
「何か不満か?」
「だって、神様は人に干渉してはいけないのでしょう」
「今更何を申すか。抱いてくれと言ったあの積極性はどうした」
「はっ! そ、それは……!」
急に羞恥が襲ってくる。確かに私はそうわがままを言って月読様を困らせた。あの日のことは一生忘れない。あんなに愛されたことは生まれて初めてだったのだから。
「喜与」
名を呼ばれて顔を上げる。月明かりの下、顎をくっと上向きにされた。そして重なる柔らかな唇に、胸が張り裂けそうになった。そっと離れていくのが名残惜しい。
「愛している」
「え……」
「愛しているよ、喜与」
「月読様……」
ああ、また。この神様はどれだけ私を泣かせれば気が済むのだろう。
「わたしもっ……私も、愛しています。月読様と一緒にいたいです」
「ああ、ずっと一緒にいよう」
「ずっとです! ずっと! ずっとですから!」
「ははっ、わかっているよ」
前のめりで必死になる私を、月読様は軽くいなす。けれどそこに冷たさなどはまったくなくて、優しく慈しむような眼差しで私を見てくれる。流れるような手つきで頭を撫でてくれる。
今まで自分の未来に希望を持つことはなかった。どうにか上手く過ごせたらと、そんなことばかり考えていた。初めて、この先の未来に光が差し希望が持てる。生きていてよかったと思える。
「私、月読様にたくさんたくさんお話したいことがあるのです」
「ああ、これからはいつでも聞こう。だが今日はもう寝なさい。ただでさえお主はまだ回復しきっておらぬ。それに満月の世話で寝不足であろうに」
月読様は困ったように笑いながら、私と満月を布団まで誘導した。確かに寝不足ではあるけれど、月読様が目を覚ました喜びで目が冴えてしまっている。それに、一抹の不安。
「寝て起きたら夢だったってこと、ないですよね?」
「心配いらぬ」
「じゃあ子守歌を歌ってください」
「子守歌か……ふむ……歌は和歌しか知らぬゆえ、また教えてくれ」
月読様は優しく頭を撫でてくれる。その心地よさに安心して、すぐに瞼が重くなっていく。布団からもぞもぞ伸ばした手は、すぐに月読様の温かな手で包んでくれた。
ああ、なんて幸せなんだろう。
意識が途切れる瞬間に見た月読様の顔は、月夜に照らされてとても美しかった。