12.神様の気配-04
「すごい回復力だわ。もしかして助からないかもって思っていたの」
「本当にもう痛みはないのかい?」
「はい、大丈夫です」
火傷を負った肌は、赤黒くただれているものの、痛みはまったくない。このただれも、日を追うごとに良くなっているらしい。月読様とうさぎが、あの薬を塗ってくれたからだろうか。
「喜与さんは、よく名月神社に来ていたのかい?」
「え……?」
「いや、うわ言のように月読様と言っていたものだから。月読様はうちの御祭神だからね」
「あ……えっと……」
「もしかして月読様のお力添えがあったのかと思ってね」
その月読様は私を助けるために力を使い果たして眠っている。全然目を覚ましてくれない。そのせいで夜なのに夜が来なくなった。申し訳なさで胸が詰まり、じわっと視界が揺らぐ。
「えっ、ちょっと、どうした?」
「あなた、何泣かせてるの?」
「えっ! 俺のせい? ご、ごめん」
「いえ……ご、ごめんなさい……ひっく……」
「何も心配しなくていいのよ。ほら、もう休みなさい。朝になったらお粥を作ってあげますからね」
優しい旦那様と奥様は私に布団をかけると、おやすみと部屋を出ていった。
夜なのに夕方のように明るい部屋。日が沈んでいないのかと錯覚してしまうけれど、紛れもなく夜。うさぎが気を利かせて障子を閉めてくれた。
「あなたは出雲に帰らなくていいの?」
「月読様が目を覚まさぬことには帰れぬ。喜与を頼むと言われているからな」
「そうなんだ」
「存分に感謝するがよいぞ」
「そうだね。月読様に感謝しなくちゃ」
「ボクに感謝しろ!」
「ふふっ、してます」
うさぎはぶつぶつ文句を言いながらも一生懸命お世話をしてくれた。そのおかげで、怠かった体も少しずつ回復に向かっていき、うさぎに背を押してもらわなくても一人で起き上がれるようになった。