12.神様の気配-01
どこからか、子守歌が聞こえる。
優しい、優しい歌声。
ねんねこね ねんねこね
可愛いお前は 良い子だね
視線を動かすけれど、声の主を見つけられない。そこでようやく自分が寝ているのだと気づいた。ゆっくりと体を起こそうとするが、何やらお腹のあたりが重くて上手く起き上がれない。
「やや、目が覚めたのか?」
「……うさぎ?」
「なるほど、やっぱりボクも見えるのか」
真っ白なうさぎが言葉を話す。これは夢か幻か、はたまた別の世界か。
「私は死んだのでしょうか?」
「寝ぼけるな。生きている。このボクが薬を煎じてやったのだからな」
「あの……動けなくて……」
「当たり前だ。お主の上に月読様が倒れているからな」
「え……月読様?」
お腹のあたりに手を伸ばす。すると、さらりとした髪の毛の感触があった。どうにかして体を起こそうとすると、うさぎが背を押して手伝ってくれる。どうにかこうにか起き上がると、月読様が私に覆いかぶさるように倒れていた。
「月読様、月読様」
揺さぶってみるが反応がない。一体どうしてしまったというのだろう。うさぎに視線を送れば、「慌てるでない」と小さな前足で布団をぽんぽんと叩く。
「月読様はお主を助けるために、力を使いすぎて眠っておられるのだ。しばらく起きぬであろうよ」
「私を助けるため……? あっ、子は、赤子はどうなったのですか? ここはどこですか?」
「待て待て。説明してやるから落ち着け。子は無事だ。お主が守ったのだと聞いたぞ」
うさぎは私が意識のない間何があったのかを説明してくれた。
伴藤家から逃げてきた私は名月神社を管理する斉賀家に助けられ、子は無事であること。生死を彷徨っていた私を助けるために、月読様が薬の神様を訪ねてくれたこと。このうさぎと共に看病してくれていたことを知った。