11.感情のままに-月読side-06
夜明け前だというのに夜が薄くなる。昼夜の均衡がまたおかしくなる。
うさぎが外の明るさに慌てた。
「あまり力を使うと、あなた様の力が弱まると思うが」
「かまわぬ」
できる限りの痛みを取ると、私の指はカタカタと震え、全身は刃物で刺されたようにズキズキと痛んだ。私が荒い息を吐く代わりに、喜与の呼吸は静かになっていく。それでいい、それでいいのだ。喜与が痛くなければ、それでいい。
「喜与、よく頑張った。お主の傷が癒えるまで、私が付いているからな」
「ボクも付いててやるから、早く良くなるのだぞ」
うさぎと手分けして喜与の赤くただれた皮膚に薬を塗り、そして清潔なサラシで巻いた。それを三日三晩繰り返した。
時々医者と斉賀の者が様子を見に来たが、喜与の穏やかな顔に不思議そうにしながらも、生きていることに安堵していた。
毎日喜与の痛みを取っていた私は、力を使いすぎたのか、蓄積された痛みに負けてふと意識をなくしてしまった。
夜が薄くなる。私の力が弱まったせいで、また世界の昼夜の均衡が崩れた。それを人の世界では、奇跡だ、祟だなどとざわめいていたことなど、知る由もないことだった。
ただ私は喜与を助けたいだけなのだ。
それ以外何がある。
夜がなくなったっていい。
世界がおかしくなってもいい。
喜与が助かれば、それでいい。
それでいいのだ――