2.色づく世界-01
翌朝、目を覚ましたのは使用人さながらの自分の部屋だった。昨夜、神様である月読様に出会って、その後どうやって帰ってきたのか記憶がない。
「夜道は危ないから見守ってやろう」
そう言われて、名月神社を後にしたところまでは覚えているけれど。あれは夢……ではないよね? ずっと私は幽霊が見えるのだと思っていた。だけどまさか神様まで見えていたなんて。
不思議な気持ちはあるけれど、なぜだか今日は目覚めが良い。いつもどおりささっと身支度をし、台所で火を起こす。朝食の準備をして御膳を運んだ。
「喜与さん」
お義母様が不機嫌に私を呼ぶ。「はい」と返事をすれば、不満そうにため息を吐いた。
「庭の花はあなたが植えたのかしら?」
「はい、とても綺麗に咲いて――」
「目障りだから抜いてちょうだい。勝手に花を植えられると困るのよ。花なんて育てる前に、他にやることがあるでしょう?」
お義母様はチラリと旦那様を見る。旦那様は感情のない声で、「今夜俺の部屋に来るように」と命令した。要するに、子作りをするということだ。
子がほしい。男子を身籠りたい。ずっとそう思って頑張ってきたのに、どういう理由か、すごく嫌な気分になる。
「おい、返事もできないのか!」
「……はい、かしこまりました」
手をついて頭を下げた。
憂鬱な気持ちが体を包む。
こんな気持ちになるなんて、初めてのことで戸惑う。どうしてだろう。心がざわつく。
庭に植えたキキョウが柔らかく揺れた。
あれもお義母様にとっては目障りなものなのだろう。早く抜いてしまわなければ。