11.感情のままに-月読side-03
夜が明けたり更けたりする、おかしな空模様。
私は出雲の大国主を訪ねていた。
「昼夜の様子がおかしいのは月読殿のせいであったか。神議りにはまだ時期が早いぞ。はて、月読殿は神議りには参加したことがなかったかな?」
「昼夜の均衡が崩れているのは申し訳ないと思っている。急ぎお主に火傷を治す方法を教えて貰いたい」
「ふむ、火傷とな。それはまたどうして」
「どうしても治したい者がいるのだ」
「夜の神の務めを投げ売ってまでか?」
「そうだ」
ふむ、と大国主は顎を撫でた。彼は治癒の知識に長けている。喜与を死なせないためには、大国主の力を借りるしかない。
私が名月神社を出たことで、一部の地域は夜が来ず、また一部の地域では夜のまま。人の世界は大混乱になっていた。それを承知でここに来た。
「なるほど。そこまでの強い想いがあるというわけだな」
「そうだ」
「その火傷、もしや人の子か? 月読殿、神は人に干渉してはならぬ」
「わかっている。罰ならいくらでも受ける。薬がないなら私の命を与えても良い」
「月読殿が命に代えてまでも救いたい人の子ということか。なるほど」
「私はその者を愛しているゆえ」
「愛とな! はっはっはっ!」
大国主は腹を抱えて笑い出す。笑い事ではない、こちらが真剣に話をしているというのに、何という馬鹿にした態度だ。確かに神が人を愛するなどと前代未聞ではあるが、笑う必要はあるまい。
「私は真剣なのだ」
「いや、すまぬ」
大国主はひとしきり笑うと、ニカッと爽やかな笑みを見せた。
「まさか月読殿の口から愛という言葉が聞けるとは思わなかったものでな。いいではないか、存分に愛されよ」
「……」
「ちょうど少名彦の酒がある。その酒に、ドクダミを煎じて混ぜ合わせ、患部に塗るがよい。毎日数回欠かさず塗り、清潔なサラシで巻いてやれ。我が神使であるうさぎを遣わそうぞ。何かの役に立つだろう」
大国主は彼の神使である白いうさぎと、酒の神である少名彦の造った酒樽を持たせてくれた。