11.感情のままに-月読side-02
医者は、この後熱が出て化膿するだろう、それ以前に体力が持つかどうか……と静かに伝えた。それは、喜与が「死ぬかもしれない」ということだ。
激しく胸が痛む。喜与が死ぬことを考えると絶望的な気持ちになった。神と人は時間の流れが違う。そんなことはわかっている。
そうではなくて――!
ふにゃふにゃと赤子が泣いた。斉賀の嫁が、慣れた手つきで抱き上げる。
「お乳をあげようね。あなたの母様は頑張っているの。だからあなたも頑張って生きるのよ」
斉賀家は皆親切だ。見ず知らずの喜与を何も言わず受け入れ、面倒をみてくれている。皆が喜与を助けようとしてくれている。それに比べて私は本当に情けない。
喜与に触れ、痛みを軽減してやる。私が喜与の痛みを肩代わりするのだ。肌が焼けるようにチリチリと痛い。だが、そんなもの喜与がされた仕打ちに比べたらなんでもない。
『私は罰が当たるでしょうか?』
『もし罰があるのなら、私がすべて受けようぞ。喜与はもう十分に伴藤からひどい仕打ちを受けたであろう。これ以上、受ける必要はない』
以前、そう言ったではないか。なぜ喜与ばかり、酷い仕打ちを受けなければならないんだ。
心に靄がかかる。どす黒い気持ちが闇を深くする。私の心が、夜空に影響を及ぼしていく。
「喜与、愛している」
その言葉は嘘偽りないのに、喜与に届かない。
「待っていろ。私が必ずお主を助ける。必ずだ」
意識のない喜与の手をそっと握ってから、私は斉賀家を出た。
――私は決心をしたのだ。
夜を統べる神だとか、均衡が崩れるだとか、知ったことか。崩れたのならまた直せばいいだけのこと。数日夜が無くなろうがどうだっていい。喜与が死んでしまうかもしれない、この事実の方がよっぽど重要だ。
強い決意の下、私は名月神社を出た。
喜与を治す方法を知るために、出雲へ。