10.月読の回想-3-05
梅雨に入り、雨の日が多くなった。久方ぶりに雨が上がり、星が見える。少し、星を流そうか。
鳥居の上から夜空を見上げる。雨上がりのしっとりとした空気が体を潤した。
ふと視線を流す。喜与が腹に手を当てながらゆっくりと歩いてくる。そうか、雨が上がったから来てくれたのだな。なんといじらしいことよ。
だが、その後ろを一定の距離を保って誰かが歩いてきていた。喜与が石段を登り始めると、それは身を隠しながら喜与のことを見ている。明らかに喜与のことを監視しているではないか。
「――喜与」
「月読さ――むぐっ」
喜与の口を手で塞ぐ。喜与が話をしているのを見られるわけにはいくまい。私の姿は見えずとも、喜与が一人で話をしている姿は随分と不思議に思うだろう。
「お主、つけられておるぞ」
「え?」
「伴藤の者か?」
「ど、どうしましょう」
喜与の顔は一瞬にして青ざめ、両手を胸の前で握りしめた。その手はカタカタと震え出す。落ち着かせるよう、喜与の手を包み込む。
「大丈夫だ。私の姿は喜与以外には見えぬ。お主はただ参拝客として祈っていけばよい」
「はい……」
「何もしてやれず、すまぬ」
「いいえ、いいえ。大丈夫です。あの、月読様。私が手を合わせている間、私のお腹に手を当てていただけませんか? 子を感じていただきたいのです」
早口の聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だったが、喜与の言わんとすることは理解した。喜与が普通の参拝客として、拝殿の前で手を合わす。私は後ろから抱きしめるように喜与を包んだ。
少し膨らみを帯びた喜与の下腹。無事に生まれてくるのだぞと願いを込める。すると、手のひらに伝わる、トンッと叩く振動。これは赤子の……?
また、トンッと小さく叩く。ここにいるのだと知らせてくるかのように、トントンと私の手を叩いた。
これを喜与は私に伝えたかったのか――
「帰ります」
「ああ、気をつけてな」
「……一目、お会いできてよかった」
「私もだ」
喜与をふわりと抱きしめる。喜与が健やかに過ごせるよう、祈りを込める。
喜与が名月神社を出るまで、静かに見守った。喜与をつけていた者は、喜与がいなくなったあと名月神社に入ってきた。きょろきょろと、何かを確かめるように辺りを見回していく。
「喜与に何かしたら許さぬぞ」
面と向かって告げてみたが、姿も気配も言葉も、何ひとつこの者には届かなかった。
これが普通であるはずなのに、酷くもどかしく感じる。そして、翌日から喜与はぱったりと来なくなった――