10.月読の回想-3-03
まさかその後、また喜与がたびたび会いに来るとは思わなかった。以前のように伴藤家で虐げられることもなく、わりと穏やかに暮らせているらしい。それもこれも身ごもったおかげだと、喜与は笑った。
「知らぬ間に、白い花が咲いた」
もし喜与が来たならば、聞いてみようと思っていた。
境内の陰っている水はけの悪い場所に、青々と茂る大きな葉。その中に、小さな白い花が咲いている。植えた覚えはないし、誰かが植えていったわけでもない。自然と育ったものだ。
「ああ、あれはドクダミですね。ちなみに白い部分は花ではなく葉で、花は真ん中の黄色い部分ですよ」
「ほう。喜与は物知りだな」
「ふふっ、これくらいしか誇れる知識はありません」
「十分立派であろう」
「ドクダミは薬にもなるので覚えておいたほうがいいですよ。越冬草なので、花が咲き終わっても土の中で根と茎が眠っているんです。だから来年もまた咲くと思います」
「そうか。それなら、来年もまた喜与と見られたらいいな」
そんな夢物語を……と、頭の片隅で思いながらも、そうなったらいいなという気持ちの方が勝る。
「はい! 来年も、また一緒に見ましょう」
喜与は屈託なく笑った。
喜与は変わらず伴藤家の嫁なのに、その事を忘れたかのように、二人の幸せな未来を夢見てしまう。
「体調に変わりはないか?」
「はい、大丈夫です。初期のような悪阻も貧血も、嘘のようになくなりました。月読様が何かしてくださったのですか? お腹を触ってもらってから調子がいいような……」
「喜与を苦しませないでくれと願っただけだ」
「神様っぽい……」
「神だからな」
「ふふっ、そうでした」
短い時間の中で笑い合う。
なんと尊い時間なのだろうか。