10.月読の回想-3-02
突然ここに来たかと思えば、そんなことを言い出す。なんと自分勝手なことだろう。それなのに、嬉しいだなんて思ってしまった。まったく、神らしくない考えではないか。
「喜与。それならば尚更こんな夜更けにここに来るでない。体が冷えてしまうだろう」
「だって……月読様が見えなくなってしまう夢を見て、どうしても会いたかった。私があの屋敷を抜け出せるのは夜しかないのです。月読様は私に会いたくなかったですか? 寂しくなかったですか?」
ぐっと胸が詰まる。真剣な眼差しで訴える喜与の頬にそうっと触れた。喜与もこちらに手を伸ばす。
ああ、もうどうしようもないこの気持ちに、嘘はつけない。駄目だな、私は。神失格なのではないか。
「ずるいことを申すな。会いたかったに決まっているだろう」
瞬きの弱かった星々が煌めき始める。私の心に呼応するように、空気が澄んだ。まったく、どれだけ夜に影響を及ぼしていたのだろうか。情けないにもほどがある。
星を流す。喜与の瞳に星が映って幻想的な光景を作り出した。触れた頬を引き寄せるようにそっと口づける。柔らかな感触に、ぐっと心が持っていかれそうになった。
「喜与。出産は秋ごろだろうか」
「はい、その通りです」
「お主が無事に出産を終えることができるよう、祈っておこう」
まだ膨らんでいない喜与の腹に手を当てる。ここに子がいるとはなんとも不思議な感じだ。喜与の顔を伺えば、ニコリと微笑んでくれたものの、顔色は悪い。少し力を流しておこうか。
「月読様。やっぱり今日お会いできてよかったです」
「ああ。私も嬉しかった。家まで送っていこう」
名残惜しいけれど、仕方がない。会いに来てくれたことが、嬉しくてたまらなかった。喜与に子ができたことも、嬉しくてたまらない。こんな気持ちにさせてくれる喜与に感謝の気持ちが込み上げる。
「喜与」
「はい」
「愛しているよ」
自然に口からこぼれ落ちた。
気持ちが溢れて、我慢ができなかった。