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10.月読の回想-3-01

何ヶ月経っただろうか。梅雨に入り、雨の日が続いた。雲間から、星が覗く。


「月読様」


喜与の声が聞こえた気がした。

いや、そんなはずはない。とうとう幻聴まで聞こえ始めたのかと自分を疑った。


だが、それは幻ではなく紛れもなく喜与で、ふらふらとした足取りで私を探しているようだった。喜与の前に姿を現すべきか一瞬躊躇ったのだが、ふいに喜与の体が前のめりになる。倒れてしまいそうなところを咄嗟に手を伸ばした。


……放っておけるわけがない。


「月読……様……?」


「喜与……」


視線が交わると、喜与はぽろりと涙を落とした。そしてそのまま、私の胸の中で意識を失った。


「喜与……なぜ……」


理由など後でいい。

喜与に会えた。

喜与に触れられた。


喜与を抱え、ぎゅうっと抱きしめる。

なんと愛おしいのだろう。


「月読様……」


「大丈夫か?」


「月読様――!」


気がついた喜与は私の胸にすがりついた。


「……喜与、私に何か用があったか?」


「はい。月読様との子を身ごもりました」


「……そうか。それでお主の願いは成就したのであろう。伴藤家の嫁に戻ったのではなかったか?」


「はい。約束通り、伴藤家の嫁としての務めを果たしております」


「よかったな」


その言葉にまったく感情がこもらなかった。それが喜与にも伝わってしまったのか、少しむっとした表情になる。別に怒らせたいわけじゃないが、仕方がないではないか。


「……月読様は嬉しくないですか? 私と月読様の子が、ここにいるのですよ」


「そうは言っても、お主はそれを伴藤家の子として育てるのだから、そこに私の感情はいらぬだろう。腹の子は伴藤の子だよ」


「そうです。わかっています。それでも、私はあなたの言葉がほしい」


「喜与はわがままな娘だ」


「月読様にしかわがままは言いません」


「一生のお願いは聞いたはずだが」


「……知りません」


「言っていることが無茶苦茶だ」


「そうですよ。私は伴藤家の嫁に戻ることを条件に、一生のお願いを聞いてもらいました。子を身ごもったときは嬉しくて嬉しくて……。悪阻も貧血もひどくて、それでも月読様との子が無事に生まれてくることを願って、耐えてきました。月読様の愛の証がここにあるから、頑張れるって思って。だけど私は……月読様に会いたくて……会いたくて……。そう思ってしまったら、どうしようもなくて。ずっと我慢していた感情が止められない……。もっとぎゅっと抱きしめてください」

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