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9.月読の回想-2-07

「これ以上のわがままは申しません。一度だけでいいので私を抱いてください。その後はちゃんと伴藤家の嫁に戻ります。私は月読様に愛されているという証がほしいのです」


喜与は夜着の帯をほどく。

ストン、と肩から着物が落ち、真っ白い肌が露になった。

心が、揺れる。

床に落ちた着物をそっと羽織らせると、喜与は顔をくしゃっと歪めた。


「喜与、そんな風に自分を粗末にするでない」


「私の体が貧相だからいけないのですか?」


「いや」


「私が伴藤の嫁だからいけないのですか? 何度もあの男に犯された体だから――」


「皆まで言わずともよい」


喜与をそのまま引き寄せて胸の中にしまう。喜与の体がどうとか、伴藤がどうとか、まったくもってどうでもよかった。


喜与は一生のお願いだと、神に祈っている。

その願いには喜与の本気の意思が籠っている。

どうしたって辛い生活に、一筋の道標を求めている。


この愛おしい喜与が笑ってくれる世界に、私は生きたいと思った。


「喜与、この傷や痣は殴られたからか?」


はだけた胸のあたりに大きな痣が見える。そうっと触れてから、口づけを落とす。痛みを吸い取ると、胸にズキンと鈍い痛みが落ちてきた。


「痛むか?」


「痛くないです。なんだか……、心臓が……壊れそう……」


あれだけ威勢の良かった喜与が、頬を染めて恥じらい始めた。うるんだ瞳は困ったように宙を彷徨う。


「喜与が私を煽ったのだぞ」


「それは、そうなんですけど……でも、あの……私、こんな感覚初めてで……」


「ではやめるのか。一生のお願いとやら」


「や、やだっ、やめないでっ、お願いっ。月読さ――んぅっ」


甘い吐息と甘ったるい声が喜与の口から放たれた。この気持ちを止められるほど、できた私ではない。たくさんの葛藤は、喜与に触れるたびに少しずつ薄れていく。


ずっと触れたかった。

ずっと自分のものにしたかった。

これが、愛というものか――

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