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9.月読の回想-2-03

「帰りますね」


「ああ。では約束通り送っていこう」


私は喜与を抱きよせて抱えた。また、喜与は頬を染めて焦りだす。


「あ、歩きじゃないのですか?」


「この方が速かろう。夜道を歩くのは危険だからな」


喜与は口をパクパクさせながらも、そのまま私に従った。そして、控えめにぎゅっと抱き着いてくる。喜与は不思議な娘だ。神に敬意を払っているのかと思えば、臆することなく意見をするし、違うものは違うと教えてくれる。そして時々いじらしいほど控えめな姿も見せる。伴藤の家では感情のない人形のような生活をしていると言っていた。私が知っている喜与からは想像もつかない。


「愛おしいと思う感情は、どう言葉で表すのだろうか?」


「え?」


「私はあまり言葉を知らないのでな」


「そうですね。それは、愛していると言えばいいのでは?」


「なるほど。愛しているか。覚えておこう」


そんなことを話しているとあっという間に伴藤家についた。見られたら困るからと、少し離れた場所で喜与を降ろす。


「月読様、ありがとうございました。お気をつけて」


「ああ、喜与もな。よく寝るのだぞ」


喜与はにっこりと微笑んだ後、すっと感情を失くしたような表情で、静かに伴藤家の裏口へ消えていった。その代わり身に、背筋が冷える思いがする。伴藤家での喜与の酷い扱いは聞いていたが、名月神社で過ごす喜与はとても明るく素直で優しい。草花が大好きで知識も深く、よく笑っている。そんな喜与しか見てこなかったからか、初めて見る喜与の感情を失くした表情に衝撃を受けた。聞いていたことが現実のものなのだと思い知らされるようだった。


喜与の余韻が残る手をぎゅっと握りしめる。この手から離れてしまったことが寂しのだといわんばかりに、胸のざわめきが抑えられそうにない。この感情は、愛おしいに似ている。


「愛している、か」


月夜に呟きがこぼれる。

自分にそんな感情を持てるとは思いもしないが――


『喜与。お主は人で、私は神だ。相容れぬものだ』


そう伝えたのは自分なのに、その言葉が酷く滑稽に思えた。

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