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9.月読の回想-2-02

「月読様は私と同じですね。私は伴藤家から出られない。月読様は名月神社から出られない」


「確かにな」


「あ、でも私は抜け出して来てるから、ちょっと違うかしら?」


「私も名月神社から一歩出たからといって、さほど影響はあるまいよ。喜与を家まで送り届けるくらいなら、大した影響はないだろう」


「そうなんですか? じゃあ今日は家まで送ってください」


「ああ、わかった」


頷けば、喜与は驚いたように目を見開いた。まるで珍しいものでも見るかのように。


「えっ、いいのですか? 冗談だったのに」


「冗談だったのか?」


「え、本当に?」


「喜与が言ったのだろう?」


「そうなんですけど……。だって、それはあまりにも嬉しすぎるというか」


「嬉しいのか?」


「嬉しいに決まってます!」


ただ家に送り届けるだけのことが嬉しいのか。そんな感情を抱いたことがなくて、ふむと考えていると「月読様は案外鈍いですよね」と笑われた。あまりにも喜与がおかしそうに笑うものだから、さらに疑問に思う。


「鈍い? 鈍い、とは?」


「女心がわからないですねって意味ですよ」


「女心とは、喜与の心ということか?」


「そうですけど……。もう、いいです。この話はやめましょう」


「人の心はわかるわけがなかろう」


「もうっ、やめましょうって言ってるじゃないですか」


「喜与が何を考えているのか知りたかったのだが……」


とたんに喜与は頬を赤く染めた。月夜でもわかるくらいにはっきりとだ。それでようやく、喜与は私に好意を抱いているのではということに気づいた。だからどうということはないけれど、その想いに応えてやれぬことに胸が痛む。


「喜与。お主は人で、私は神だ。相容れぬものだ」


「わかっています。それでもこうしてお話ができていることは事実です。私はその事実がとても嬉しくて幸せなのです」


遠くでフクロウの鳴く声が聞こえる。夜もますます更けてきた。喜与との時間はいつも短い。だが、短い時間の中で私はいつも新しい感情に気づかされる。今まで感じたことのなかった、胸がざわめく感情だ。


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