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9.月読の回想-2-01

喜与はたびたび深夜に名月神社に来るようになった。毎日ではないし、何日か来ないこともざらにあった。それでも来るのは決まって夜が更けたしんとした真夜中だった。


喜与は伴藤家の嫁で、使用人のような扱いを受けている。けれど嫁としての役割も求められ、跡継ぎを生めと重圧をかけられているのだと教えてくれた。


「子ができないと私の居場所はなくなるのです」


「そうか」


「このままできなかったら、追い出されてしまうのかしら?」


「そうなったらここに来ればよい」


「ふふっ、嬉しい」


お互いに、半分冗談で半分本気の言葉だった。

喜与は涙こそこぼさなかったものの、瞳はゆらりと弧を描いて、そして儚く微笑む。辛いのだろうなと思ったが、何もしてやることができない。ただ、一緒に草花を愛で、喜与の話を聞いてやるだけだった。


「月読様といるときが一番楽しいです」


「私もお主の話を聞いているのが楽しい」


「たまには月読様のお話もお聞かせください」


「面白い話など持ち合わせておらぬ」


「面白くなくていいのです」


「ふむ……。では何か聞きたいことはないか? 答えてやろう」


そう伝えれば、喜与はうむむと一生懸命に考え始めた。そして「あっ!」と思い出したように目をくりっとさせた。


「月読様は何の神様ですか?」


「私は夜の神だ」


「夜の神?」


「私はこの神社からこの世の夜を見守っている。私がここから離れると、昼と夜の均衡が崩れるのだ」


「それってものすごく重要な役割ですよね?」


「そうだろうか?」


「そうですよ。だって夜が来るから、人は眠りたいと体を休めることができるのです。ずっと昼だったら働きづめですよ」


「それは喜与が働き者だからだろう」


「では、どこかに行ってみたいと思ったことは?」


「考えたこともなかったな」


本当に、自分の当たり前を少しずつ壊されていく。与えられた役割に疑問を持つこともなかったし、それに歯向かおうなどとも思ったことがなかった。自分に持ち合わせていなかった新しい考えを、喜与に教えられていく。

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