表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/93

8.月読の回想-1-06

「……それは、考えたことがなかった。そうか、だからお主と話すのが楽しいのだろうな。その花はどこに植える? 手伝おう」


娘の手からキキョウの束を受け取る。境内の片隅に、植え替えた。こんなことをするのも初めてだ。自分の行動がどうも人っぽくて、妙にくすぐったい。


「綺麗に咲くといいな」


少しばかり願いを込めて水を撒いた。萎れていたキキョウがぱっと花開く。すると娘の顔もぱっと輝いた。


「えっ、すごい! すごいです月読様! これって神様のお力ですか?」


「さあ、どうであろう? 少し、願いを込めたが」


くすりと笑えば、すごいすごいと無邪気に喜ぶ。こんな大した事ない力でも、人は喜ぶものなのか。


「綺麗だな」


「はい、とても。また、お花を持ってきてもいいですか?」


「かまわぬ。私も綺麗な花が見られるのは嬉しいからな。だが育て方は知らぬゆえ、お主が面倒をみてくれ」


「月読様、本当にありがとうございます。私、胸がいっぱいで――」


胸に手を当てて瞳を潤ませる。これほどまでに人に感謝されようとは思ってもみなかった。この娘は、私に知らなかった世界を教えてくれる。


「そういえばお主の名を聞いていなかったな」


「はい、私は喜与(きよ)と申します」


「喜びを与えるで、喜与か。まさにその名の通り、私に喜びを与えてくれたな。礼を申す」


人との関わりを知らず、知ろうともしなかった私が、今は人と関わりたいと思っている。いや、それは喜与だからそう思うのであろうか。


満天の星空の下、鮮やかなキキョウが柔らかく揺れる。それに負けぬくらい綺麗な笑顔で、喜与が微笑んだ。そんな喜与のことを、もっと知りたいと思うようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ