8.月読の回想-1-04
「私が幽霊だというのなら、お主はどうするのだ?」
「え? そうですね、残念ながら除霊はできないので、話し相手くらいにしかなれませんが」
「では、話し相手になってもらおう」
人と話すことがもの珍しくて、私は娘を抱えて鳥居の上まで跳ぶ。
「バチ当たりです!」
そう叫びつつも、なぜだかしがみついてくる。高いところは怖かったのだろうか。だがそれよりも、私は見せたかった。毎日一人で見上げる夜空を、この娘に。
「今夜は月も星も綺麗に見える」
「うわぁ、すごい」
「そうであろう」
目をキラキラさせながら、娘はしばらく夜空を見上げていた。それなのに、その表情が少しずつ曇っていく。
「こんな夜更けに何をしに来た? 先ほどは熱心に祈っておったようだが? 女子の独り歩きは危ないぞ」
「男子を身ごもれるように神頼みに来ました」
「子ができぬのか?」
「はい……。神様にお願いしたら、きっと願いを聞いてくださると思って」
「神は万能ではないから、残念ながらお主の願いは聞いてやれぬ」
「あなたに何がわかるんですか」
どうやらかなり思い詰めていた様だ。それもそうか、こんな真夜中に神頼みに来るくらいだからな。だがそんな期待してくれるな。神は何でも叶えられるわけがないのだ。
「私は幽霊ではない。神だ」
事実は事実。目に見えるできることと言えば、星を流すことくらいか。空に手をかざし円を描く。キラリと星が流れた。
「……神様のお名前は?」
「私は月読という」
娘は私をじっと見る。
信じられないといった表情に、思わず笑みがこぼれた。これが喜与との出会いであった。