7.命にかえても-04
すーっと襖が開く音がして、ふと目を覚ました。薄暗闇の中、誰かが立っている。むくりと体を起こすと、その人と目が合う。
「お義母様?」
酷く冷たい目をしたお義母様の手には、大きな鍋が抱えられている。
「――てやる」
「え?」
「跡取りも産めない嫁なんて、殺してやる!」
「きゃあっ!」
金切り声と共に鍋が投げつけられる。咄嗟に子を抱いて庇ったけれど、鍋には沸騰した湯が入っていたらしく、熱湯を浴びせられた。
「……くっ」
熱い。痛い。でもこのままでは殺される。私が殺されたらこの子もすぐに殺される。それだけは絶対にさせない。させるもんか。
なおのこと襲いかかってくるお義母様に、転がっている鍋を引っ掴んで投げた。鍋が熱かろうが指を火傷しようが、そんなのどうでもよかった。
「ギャアアア!」
熱い鍋がお義母様の顔に当たる。お義母様は酷い叫び声を上げながら両手で顔を覆った。奥から足音が聞こえる。お義母様の叫び声で、旦那様とお義父様が気づいたのだ。
絶対に殺される――!
私は子をしっかりと抱いて、着の身着のまま屋敷を飛び出した。
熱湯を被った半身が痛い。
熱い鍋を掴んだ指が痛い。
産後の弱っている体が憎い。
息が切れる。
血が流れる。
意識が途切れそうになる。
子が胸の中でふにゃふにゃと泣いている。
熱湯は被らなかっただろうか。
無事だろうか。
名月神社の石段が見える。
助けて……助けて……月読様……!
「たすけて……」
もう足がもつれて動けない。
このまま私は死ぬのかもしれない――そう思った瞬間。
「喜与!」
月読様の声が聞こえた。姿は見えない。けれどその声だけでふっと気が抜けて、私は意識を手放した。
来てくれた。
気づいてくれた。
どうか、どうかこの子だけは助けてください……。
私はどうなってもいいですから、神様、どうか助けてください……。