7.命にかえても-02
陣痛がはじまり、尋常じゃない痛みに顔が歪んで脂汗が出た。産婆さんが来てくれて何かを指示しているようだけど、痛みで何も考えられなかった。
いきんで逃していきんで逃して……何度繰り返したのだろう。頭が朦朧とする。痛みですべてが麻痺する。
「頭が見えていますよ。後少し」
そんな声が耳に届いて、最後の力を振り絞った。
訳がわからなかった。私の股が裂けてもいいから、とにかく子が無事に生まれてくれたらそれでよかった。
「よく頑張りましたね」
産婆さんがそう言ってくださったのを、どこか頭の片隅で聞いていた気がする。やがて、オギャアオギャアと可愛らしい声に意識が呼び戻される。
「元気な女の子ですよ」
産婆さんが綺麗におくるみに巻いて胸に抱かせてくれた。小さくふにゃふにゃで、泣いていても可愛らしい。
ぽろっと涙が溢れた。月読様との愛の証が無事に生まれた。なんて尊い存在なのだろう。
「あなたによく似て可愛いわねぇ」
産婆さんが微笑んでくれる。
私に似ているかしら? 月読様の面影は? まだ生まれたてで、よくわからないわよね。それにしても、嬉しい。この小さな存在を、大切に育てて行かなくては。
そんな余韻に浸っていると、パンッと襖が開く。
そこにはお義母様と旦那様が鬼の形相で立っていた。
「赤子が女だったんですって? どういうこと? 何かの間違いよね?」
「お前、なぜ跡取りを産まない。この役立たずが!」
ものすごい剣幕で私に掴みかかろうとする旦那様を、産婆さんが制止する。
「お止めなさい。今は出産したばかりですよ。体を休める必要があるのです。出ていきなさい」
「ふざけるな! 男を産めないこいつによく言い聞かせないといけないからな! 死んで詫びろ!」
「出ていくのはあなたでしょう? 部外者は口を挟まないでちょうだい。喜与さん、あなたどう責任を取るつもりなの? 跡取りを産めない嫁など伴藤家には不必要だわ!」
好き勝手罵倒し、産婆さんをも足蹴にする。見るのも聞くのも耐えないけれど、急に頭がふわっとして意識が遠のいた。
「はっ! いけない! うかうかしていると本当に死んでしまいますよ。見てごらんなさい、こんなにも血が流れたのですから。ちょっとは状況を考えたらどうですか!」
産婆さんがテキパキと処置をしてくれる。朦朧とする意識の中で、お義母様と旦那様が部屋を出ていくのが見えた。私はそのまましばらく眠っていたようだ。