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6.それが別れになるなどと-05

石段を登りきって鳥居をくぐると、すっと空気が変わった気がした。雨上がりのじめっとしたまとわりがなくなり、名月神社の澄んだ空気が体を浄化していくよう。


「――喜与」


すっと耳に届く透き通った声。


「月読さ――むぐっ」


振り向きざまに突然口を押さえられ、何事かと目を見開いた。


「お主、つけられておるぞ」


「え?」


「伴藤の者か?」


「ど、どうしましょう」


急に心臓がドッドッと激しく脈を打ち、手が震える。月読様と会っているところを見られたら、何と答えればいいのだろう。


月読様は私の震える手を両手で包むように握った。


「大丈夫だ。私の姿は喜与以外には見えぬ。お主はただ参拝客として祈っていけばよい」


「はい……」


「何もしてやれず、すまぬ」


「いいえ、いいえ。大丈夫です。あの、月読様。私が手を合わせている間、私のお腹に手を当てていただけませんか? 子を感じていただきたいのです」


「ああ、わかった」


私は拝殿の前まで進む。

パンパンと手を打って、目を閉じた。

月読様は私を後ろから抱きしめるように、お腹に手を当ててくれる。


どうか子の生命を感じ取ってほしい。

そればかりを祈っていた。


「帰ります」


「ああ、気をつけてな」


「……一目、お会いできてよかった」


「私もだ」


月読様はふわりと抱きしめてくれた。できることなら私も抱きしめ返したかった。


石段の下まで月読様は送ってくれた。伴藤の者が出てくることはなかったけれど、月読様が嘘をついているとは到底思えない。どこかに潜んで私のことを監視しているのだろう。


もしかして、今までも?

いや、そんなことはない。それならば必ず罵倒されていたはずだ。大丈夫、落ち着いて。


カタカタ震える手をぎゅうっと握りしめる。屋敷に戻ってすぐに布団に入った。気が気じゃなく朝まで眠れることはなかったけれど、誰かに叩き起こされることもなかった。だから少し安心していたのだけれど……

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