1.神様との出会い-03
私はそっと屋敷を出て近くの神社へ向かった。
真っ暗な夜道を月明かりのみで進む。神社へ続く石段の両脇にはいくつか灯籠が立ち、ほんのりと淡い光を放っている。石段を登り切ると大きな鳥居が構え、その先に拝殿がある。
ふと、気配がして上を見上げた。鳥居の上に男性が座っている。時折吹く風が、男性の装束の裾を柔らかく揺らした。
その出で立ちはとても美しくて儚い。思わず見惚れてしまうほどだ。けれどすぐに現実を思い出す。
今は深夜でほとんどの人が寝静まっている時刻。こんな時間に神社にいるなんて、怪しいにもほどがある。しかも鳥居の上にだ。盗賊の類だろうか。だとしたら私は逃げるべきなのだけど……。
どうしてか逃げる気にはならなかった。
その光景がどこか神秘的で非現実的に思えたからだ。
(また私は見えてしまっているのかしら)
そんなことを思いながら鳥居をくぐった。
少しばかり嫌な気持ちが呼び起こされ、考えないように頭をブンブンと振る。
ここ名月神社は、鳥居の奥に拝殿と本殿がポツンと建っているだけで、あとはまわりを木々に囲まれている、実に殺風景だ。ただ、空気だけはとても澄んでいて、月明かりに照らされた神社全体が不思議な力を宿しているように見えた。
神聖な空気の中、拝殿の前で手を合わせる。
(どうか男子を身籠ることができますように)
固く目を閉じて願いを込めてから、そうっと目を開けた。すると目の前に人が立っており、あまりの驚きに「きゃっ」と悲鳴を上げて尻もちをついてしまった。
「……すまぬ。まさか私の姿が見えるとは思わなかったのでな。驚かせてしまったか」
目の前の人は申し訳なさそうに詫びる。細くしなやかな銀色の髪が、風に揺れた。一見女性のように綺麗で繊細なその人を、私は男性だと思った。ただし、人間ではない別の何かの。