6.それが別れになるなどと-04
六月になり、梅雨入りをした。しとしと降る雨が、庭の紫陽花を濡らす。紫陽花だけは伴藤家に嫁入りしたときから庭に植わっていた。だからてっきりお義母様はお花が好きなのだと思っていたけれど。
自分の認めたもの以外は排除する傾向にあるらしい。今さらそれに歯向かう気はさらさらないけれど、理不尽さを感じずにはいられない。
「喜与さん、お使いを頼まれてちょうだい」
「はい、ただいま」
相変わらず伴藤家はお義母様を中心に回っている。子を身ごもってから罵倒されるようなことはなくなったし、優しい言葉をかけてもらえるようにもなったけれど、それは私に対してではなく、生まれてくる子に対してのものだと気付いた。悪阻で動けなかったときはさすがに寝かせてもらえたけれど、悪阻のなくなった今は前と変わらずセコセコと働いている。
雨の中、傘をさして外に出た。しとしとと降る雨はまだまだ止みそうにない。今日は一日中雨だろうか。
歩いている途中でお腹がぽこんと振動した。何だろうと思っていると、またぽこん、ぽこんと小さく叩かれる。
「もしかして子が動いてるのかしら?」
そうっと下腹に手を当てる。また、ぽこんっと手に小さく衝撃が伝わった。
「やっぱりそうだわ」
ドキドキと胸が高鳴る。ふっくらとしてきた下腹から、子が成長していることだけはわかっていた。けれど、動く衝撃は殊更ここに生命があるのだと教えてくれているみたいだ。
早くこの事実を月読様に伝えたい。彼ならきっと優しい微笑みで喜んでくれるはずだ。その姿を想像するだけで頬が緩む。
夜には一旦雨が止んで、雲間からパラパラと星と月が見え隠れした。これなら名月神社へ行けそうだ。
伴藤家が寝静まった深夜、こっそりと屋敷を出た。今夜は月が小さく時折雲に隠れて、月明かりがあまり届かない。
名月神社の石段まで来ると、ほうっとため息が出た。神社に向かって伸びている石段の脇の灯籠が、淡いオレンジの光を放っているからだ。優しい光が足元を照らしてくれる。
お腹がぽこんと鳴った。
「ふふっ、子も喜んでるのかしら」
下腹を支えながら一歩一歩石段を登っていく。少し息が切れるけれど、月読様に会えると思うと苦ではなく頑張れてしまう。




