6.それが別れになるなどと-01
春になり気候が暖かくなってきた。冬の間は寝込んでばかりだったため、大好きな草花に触れることがなかった。月読様とも会わなかったから、名月神社に草花の種を植えることもしなかった。
けれど自然とは不思議だ。風がどこからか種を運んでくる。そしてそれが勝手に育ってゆくのだ。
「知らぬ間に、白い花が咲いた」
ある夜、月読様が呟いた。
境内の陰っている水はけの悪い場所に、青々と茂る大きな葉。その中に、小さな白い花が咲いている。
「ああ、あれはドクダミですね。ちなみに白い部分は花ではなく葉で、花は真ん中の黄色い部分ですよ」
「ほう。喜与は物知りだな」
「ふふっ、これくらいしか誇れる知識はありません」
「十分立派であろう」
月読様はふっと微笑んで優しく頭を撫でてくれた。
約束を破ってから、何か吹っ切れたのか、体調の良い日はまたこうして深夜に月読様の下を訪れるようになった。伴藤家に少し後ろめたさも感じつつ、それでも月読様と一緒にいられる時間を噛みしめる。
「ドクダミは薬にもなるので覚えておいたほうがいいですよ。越冬草なので、花が咲き終わっても土の中で根と茎が眠っているんです。だから来年もまた咲くと思います」
「そうか。それなら、来年もまた喜与と見られたらいいな」
「はい! 来年も、また一緒に見ましょう」
月読様とは深夜にしか会えない。少し寂しい気もするけれど、それでも会えることの喜びを感じている。生まれてくる子も、月読様の姿が見られたらいいのにな。